四条貴音
木霊するは厭魅の目録。
四条貴音
闇より覗く、怨恨の視線。
四条貴音
ひとつ、ふたつ。
四条貴音
或いはみっつ。
四条貴音
いずれも同じ影を篝火に揺らし、唸り声を上げて。
四条貴音
魑魅か魍魎か、さもなくば――。
四条貴音
いいえ。
四条貴音
かつては、彼も人でした。
四条貴音
禁忌を犯し、禁裏を垣間見た罪により罰を与えられ、
四条貴音
贖いなど赦される筈もなく、只々堕ちていったのです。
四条貴音
では、誰が彼を赦すのでしょう。
四条貴音
天に座するだけの神でしょうか。
四条貴音
否。いる筈などありません。
四条貴音
なればこそ、私は呪詛を詠います。
四条貴音
もっと怒りなさい。そう、燃えるように。
四条貴音
もっと恨みなさい。そう、煮え滾る程に、と。
四条貴音
想いと己を殺し、詠い続けるのです。
四条貴音
此処に魂を縛るのは、他でもない私。
四条貴音
全ての怨嗟を私に向けよ!
四条貴音
呪いなさい。我を忘れ、ただひたすらに。
四条貴音
そして――
四条貴音
―――――
四条貴音
かつては、彼も人でした。
四条貴音
優しき人でした。
四条貴音
愛しき人でした。
四条貴音
今は斯様に醜き姿でも、人であったのです。
四条貴音
意思がある。心もある。其は今も尚、変わらずに此処にあるのです。
四条貴音
故に、繋がねば。
四条貴音
繋がねば……また、死に急ぐのでしょう?
四条貴音
行く先は無明だと知っています。
四条貴音
或いは、無である事も。
四条貴音
ですが……
四条貴音
私は……共に歩みたい。
四条貴音
我儘、夢語だと重々承知。
四条貴音
私もまた、同じ”人”で、同じ様に不器用なのですよ?
四条貴音
……。
四条貴音
……幾百の言霊も既に響かず。そうと知りながらも紡いでしまうのは、真悲しいものですね。
四条貴音
全ては愛するが故の衝動。……忘れてください。
四条貴音
己に与えた使命は詩を繰り返す事。言祝の毒と、呪詛の愛を勾玉に乗せて。
四条貴音
この喉が焼け落ちるまで詠い続けます。
四条貴音
全ての怨嗟を私へ向けよ!
四条貴音
呪いなさい。我を忘れ、ただひたすらに。
四条貴音
そして――
四条貴音
心が壊れ、人という名の灯火が果てた時。
四条貴音
私も壊れ、其の魂を冥府へ繋ぐでしょう。
四条貴音
時が止まり、罪の枷を外したのなら。
四条貴音
穢れのない心で、また来世に逢いましょう。
四条貴音
指切りです。
四条貴音
……あなた様。
(台詞数: 49)