四条貴音
【ナレーション】むかしむかし、あるところに、お姫様が暮らしておったそうな。
四条貴音
【ナレーション】見目麗しく、嫋やかなお姫様は、「かけらぁめん」を好んでおったそうじゃ。
四条貴音
【ナレーション】いや、「つけ麺」に対する普通のラーメンのことではない。
四条貴音
【ナレーション】大盛りのラーメンを食べ切れるか否か、賭け事をするのにのめり込んでおった。
四条貴音
【ナレーション】そんな、ある夜……
四条貴音
「うふふっ。三戦三勝して帰るのは、心晴れやかな思いです。今宵は月も美しく……
四条貴音
……!向こうにいるのは、まさか!」
徳川まつり
【ナレーション】夜道を帰る姫君の前に現れたのは、人ほどの大きさの、大蛇じゃった。
四条貴音
「わたくし、蛇は駄目なのです……こちらに隠れて、消えるのを待ちましょう。」
徳川まつり
【ナレーション】隠れたお姫様に気づかず、大蛇はブツクサ言いながらこちらに来おった。
徳川まつり
「ほ?まつり、お腹がポンポコなのです。さっき食べた、人間さん……
徳川まつり
さっき食べた、人間さん……くらいの大きさの、パンケーキのせいなのです。」
徳川まつり
「でも、こんな姿は誰にも見せられないのです。『アレ』を飲むのです。」
徳川まつり
【ナレーション】大蛇はそう呟くと、お姫様の隠れたのとは逆の茂みに入っていき……
徳川まつり
「がしゃん!なのですー。」
徳川まつり
【ナレーション】自動販売機で、何やら見かけぬドリンクを買ったそうな。
徳川まつり
【ナレーション】飲むと、みるみる大蛇のお腹は凹み、はいほーな腰つきになってしもうた!
四条貴音
……
四条貴音
「あのどりんくには、人智を超えた魔力があるようですね。」
四条貴音
「昔乳母から聞いた御伽話では、思い違って『人を溶かす草』を食してしまい……
四条貴音
……最後には、蕎麦が着物を着たかのごとくの姿で果てた、ふーどふぁいたぁが居りました。」
四条貴音
「しかし、あの蛇めの申した通りなら、あのどりんくは小麦粉を溶かす筈。憂いは有りません。」
四条貴音
【ナレーション】お姫様は、そのドリンクを買い込み、かけらぁめんの折、密かに服したのじゃ。
佐竹美奈子
【ナレーション】お姫様の連勝記録が話題となった頃、都から勝負を挑みに来た娘がおった。
佐竹美奈子
「さあ、『熱量の料理人』美奈子の挑戦状、受けてもらうよ!」
四条貴音
「貴女の腕が砕けるのが先か、わたくしの五臓六腑が満ちるのが先か、いざ尋常に勝負!」
佐竹美奈子
【ナレーション】稲妻の速さで麺を打ち、茹で上げる美奈子の前に、お姫様は苦戦してしもうた。
四条貴音
【ナレーション】仕掛けるは今ぞと、フトコロのドリンクに手を伸ばした、その時!
佐竹美奈子
「あ……貴女も、そのドリンクを飲んでたんだね。」
四条貴音
「……見破られましたか。暴かれてしまっては、最早これまで。しかし、貴女『も』とは?」
佐竹美奈子
「えへへ……実は私も、今みたいな白熱する調理中は、のんでるんだよ。」
四条貴音
「このどりんくの効能は、小麦粉を溶かし、ますます食べられるようになる事ではないのですか?」
佐竹美奈子
「ううん、そうじゃないよ。そのドリンクの力はね……
佐竹美奈子
飲んだ人の夢を叶えること、『成りたい自分』になるために能力を高める効果なんだ!」
佐竹美奈子
「私には、食べる人を満腹させる為の高速調理の能力をもたらす効果が有るよ。」
四条貴音
「わたくしには、勝負に勝つため……否、らぁめんを堪能するため、無限の食の力が備わる、と。」
佐竹美奈子
「私達、似たところが有るのかもね。違う形で出会ってたら、いいお友達になれたかも……」
四条貴音
「同感です……しかし今は、雌雄を決せねばならない間柄。悲しいことです。」
佐竹美奈子
「……どっちもドリンクを飲んでるんだから、卑怯、じゃないよね。全力で行くよ!」
四条貴音
「望むところです。食に全てを投げ打つ貴女に敬意を表し、全身全霊をもって迎え撃ちましょう。」
佐竹美奈子
【ナレーション】二人の戦いは、果てることなく続いたそうじゃ。
四条貴音
【ナレーション】出汁が尽き……箸も器も砕け……二人の肉体が滅んでも、なお。
四条貴音
……
佐竹美奈子
【ナレーション】現在の○○県⚫︎⚫︎市、そこに在る南無故温泉郷……
佐竹美奈子
【ナレーション】円筒形の岩から湯が湧き出続ける『釜茹で地獄』は、時折トンコツの香りが漂い、
四条貴音
【ナレーション】その湯が流れ落ちる『姫滝』は……
四条貴音
【ナレーション】呑まれれば最後、木の葉すら浮かび上がることは無いと言われておるそうじゃ。
(台詞数: 47)