甘い影【了】
BGM
恋花
脚本家
concentration
投稿日時
2015-01-25 03:32:21

脚本家コメント
これにて了。
いつもの、気分のままに書き散らす反省も含めて、「統一感と変化」をテーマに書いてみました。
終わり方に納得いかない感じではありますが、まあそれも一環ということで。
EgoーWrappin'「アマイ カゲ」

コメントを残す
木下ひなた
未だ微かに石鹸の香り残る髪を、千鶴お嬢さんに梳いて貰いながら
木下ひなた
湯上がりで仄かに頬を赤く染めた、貴音お嬢さんの表情をちらと覗き込んだ。
四条貴音
スープカップを両手でそっと持ち、立ち上る湯気の香りを愉しんでいる様な
木下ひなた
彼女の表情を見て、ふと、不思議に思った。
四条貴音
彼女は普段、極めて大量の食事をとる。
木下ひなた
それは、あの体の何処に消えているのかと、皆が口を揃えて言う程に、大量に、しかも瞬く間に。
四条貴音
ところが彼女は、家での食事は至って普通に
木下ひなた
……いや、確かに量は多いのだが
木下ひなた
ゆっくりと、他の誰と比べても遅い位にゆっくりと
木下ひなた
千鶴お嬢さんの作った御飯を食べる。
四条貴音
「二階堂千鶴の鶏がらすーぷは真、美味ですね」
二階堂千鶴
「コンソメスープですわよ。まあチキンコンソメですから、鶏ガラっちゃあ鶏ガラですわね」
木下ひなた
雨の中の光景が未だ頭から離れない私には、いつも通りの二人のやり取りが空々しい。
木下ひなた
いや、いつも通りではないから、空々しく感じるのか。
木下ひなた
『振られた』と言っていた彼女だが、明日あの人に会えば
四条貴音
お早うございます。昨日は御馳走頂き有難うございます。その上大変良い品を……
木下ひなた
などとしれっと挨拶しそうな気がする。
木下ひなた
恐らく、はっきりと想いを伝えて拒絶された、という訳でもないのだろう。
木下ひなた
だから千鶴お嬢さんも、普段通りの態度で接しているのだろうか。
木下ひなた
何故か突然、思い出される、とある夜の記憶
木下ひなた
どうにも気分がすぐれず、寝付けなかった、とある夜
木下ひなた
暗いキッチンの床で、しゃがんだまま抱き締めあう二人。
木下ひなた
何かに怯える様に、互いを守る様に、必死に抱き締めあう二人。
木下ひなた
私に気付く事もなく、ただじっと、互いを支え合うかの様に。
木下ひなた
その光景は、私をたまらなく不安にさせたのだが
木下ひなた
果たしてその時何が有ったのか、ついぞ聞くことが出来なかった。
木下ひなた
そのあやふやな不安な気持ちの一方で
木下ひなた
何故かその光景に安堵感を覚えていた。
木下ひなた
今宵もまた、相反する二つの思いに揺られながら
木下ひなた
布団の中で、その甘い影の香りに包まれて
木下ひなた
きっと私は、寝付けない夜を漂うのだ。

(台詞数: 31)