七尾百合子
「はあ……疲れた。やっぱり六法は重かったな」
七尾百合子
「さて、今日のお仕事は終わったし。さっさとおうち帰ろっと」
七尾百合子
……某日、そこそこ頑張ったおかげでそこそこ有名になった私でした。
七尾百合子
最近はこんな風に一人での仕事を任せてもらえるようになりました。上々です!
七尾百合子
何でも私は他の皆より手がかからないらしいのです。大人ってことですね!
七尾百合子
そんなこんなで連日お外でのお仕事が続いています。勿論明日もです。
七尾百合子
おかげで毎日とても充実しています。でも……
七尾百合子
「最近みんなと、会えてないな……」
七尾百合子
「あ、でもこれも売れっ子さんの運命だよね!うん!やむなしやむなし!」
七尾百合子
「……」
七尾百合子
「今日は劇場、寄っていこうかな」
七尾百合子
「あ、そうだ。駅前のお菓子屋さんで何か買っていこっと……干し芋でいいかな?」
四条貴音
ええ、干し芋の嫌いな女性はいませんよ。
七尾百合子
と、その時でした。
七尾百合子
「え!嘘、雨?大変、六法が濡れちゃう!」
四条貴音
百合子、こちらに。
七尾百合子
そこで私は、しばらくの間、近くの屋根の下で雨宿りすることにしました。
七尾百合子
「しばらくの間……いつまでかな……」
七尾百合子
「前みたいに、皆と一緒にいるの……もう難しいのかな」
四条貴音
「……何も、こんな時に降らなくても」
七尾百合子
私もそう思います。雨は人を凹ませる何かがありますよね。
七尾百合子
昔は長靴レインコートではしゃいでたのに……
七尾百合子
まあ、きっとこれも大人になった証拠ですよね!ポジティブシンキンッ!
七尾百合子
「なんて出来るはずもなく……はあ、本格的に降ってきた……嫌な臭いだなあ……」
七尾百合子
「暇だし、六法でも読んどくかな……あ、だめだこれもう読み過ぎて諳んじちゃった」
七尾百合子
本にまで見放され、とうとうすることが無くなった私は考え事をするしかありませんでした。
七尾百合子
内容は……さっきと同じようなことなので省略します。
七尾百合子
本題はここからです。こんな天気は文字通り俯きがちになってしまうものですよね。
七尾百合子
そんなわけで私は、大きな影が真上に来るまで、足音にも気づけなったのです。
七尾百合子
「え、あ……」
七尾百合子
上を見上げると、さっきまでの薄暗い雲では無く、大きな橙の空が広がっていました。
七尾百合子
って、まあ。勿論そう見えただけで、実際は傘でした。男の人の傘ってあんなに大きいんですね。
七尾百合子
とにかく、その傘をさしていた人は私のよく知っている人でした。
七尾百合子
そして、思っていたよりずっと、私を知っていた人でした。
七尾百合子
「ぷ、プロデュ……」
七尾百合子
同じタイミングで、あの人が私の名前を呼んで……その瞬間、とても胸が痛くなり……
七尾百合子
そこで、時が止まりました。
四条貴音
なるほど……簡単なようで、そうでもないようで……
七尾百合子
貴音さん……私、大人なはずなのに……なんで痛いのかわかりません。怖いです。
四条貴音
……昼間にも言った通りです。あなたの心と言葉が噛みあってないのです。でもそれでいいのです。
七尾百合子
これで……いい?こんなに痛いのに?
四条貴音
恐れないでください。それは痛みなどではありません。知らないだけです。
四条貴音
その橙の空を美しいと感じたのなら、そこに居るべきなのです。
七尾百合子
…………私は……
七尾百合子
私は自分の頭も良くわからないまま、傘の下に入りました。思った通り、優しく受け入れられました
七尾百合子
それから後はゆっくり、ゆっくりと、私たちは雨の向こうに消えていきました。その空の下は……
四条貴音
空の下は、外から窺い知る事は出来ない……ですか。真、夢のようにあっけない幕切れです。
七尾百合子
貴音さん!言い忘れてました!
四条貴音
百合子!せっかく恰好をつけて落着したというのにまだ居たのですか。何です?
七尾百合子
ええ!大切なことです!あの、私の物語……
(台詞数: 50)