周防桃子
「……何やってるの、亜利沙さん」
周防桃子
お菓子の家のお菓子のソファー。そこにうさぎの耳を付けて亜利沙さんがちょこんと座っている。
松田亜利沙
「今日のありさは、うさぎさんなんです!」
周防桃子
「……はぁ?」
松田亜利沙
「だから、ありさはうさぎさんなんですよ!うさぎは寂しいと死んじゃうんです!」
松田亜利沙
「だから、構って欲しいんですよぉ?ダメですか?」
周防桃子
耳をぴこぴこさせて首をかしげる亜利沙さん。一体どうやって動かしているんだろう。
周防桃子
「まぁ、別にいいけど……。変なことしないでよ?」
松田亜利沙
「わーい!ありがとうございますー!正直に言うもんですねぇ~」
周防桃子
今度は耳をぴーんと立てて、跳ねるようにソファーから降りてきた。
松田亜利沙
「じゃあじゃあ、一緒にお茶にしましょう、お茶!お願いしまーす!」
天海春香
「はーい!お待たせ~」
周防桃子
亜利沙さんの声で出てきたのは春香さん。こっちは普通の格好だけど……。
天海春香
「それじゃあ……召し上がれ!特製クッキーだよ!」
松田亜利沙
「きゃーきゃー!さあさあ、食べましょう、桃子ちゃん!座って座って」
周防桃子
促されるままにキャンディの椅子に座る。チョコレートの机には飴細工のグラス。
松田亜利沙
「それじゃあ、桃子ちゃん。あ~んしてください。あ~ん♪」
周防桃子
「い、いや、それは、ちょっと……」
松田亜利沙
「ダメですか?ありさ、うさぎさんなので無視されると死んじゃうんですけど」
周防桃子
「それはもののたとえでしょ?大丈夫、一人で食べられるから!」
松田亜利沙
「ど、どうしても、ダメですか?」
周防桃子
亜利沙さんの目が見る見るうちにうるんでいき、ぽろぽろと涙が零れていく。
周防桃子
「ダメなのものはダメ!一緒に食べるだけだよ!」
松田亜利沙
「そんな……
松田亜利沙
「そんな……そんなあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
周防桃子
狭い部屋に亜利沙さんの叫び声が響く。思わず耳を塞ぎ目を閉じる。
松田亜利沙
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………」
周防桃子
どれくらい経っただろう。きんきんと痛む耳から手を外し、静かになった部屋を薄目で覗う。
周防桃子
ラムネの窓ガラスが割れ、床のクッキーにひびが入り、チョコレートの机は砕け散り、そして……
松田亜利沙
「……」
周防桃子
亜利沙さんの姿はなく、ただ床に涙の染みと白く長い耳が残っているだけだった。
天海春香
「ダメだよ、桃子ちゃん。うさぎは寂しいと死んじゃうんだから」
周防桃子
「いや、冗談でしょ?どこかに隠れてるんでしょ?そうじゃなかったら、これは夢だよ。きっと」
天海春香
「……夢なら、何をしてもいいの?」
周防桃子
「そ、そんなわけじゃ……」
天海春香
「そんな悪い子の桃子ちゃんは、夢から出してあげません!!」
周防桃子
「は、春香さん、何を言って……えっ?」
周防桃子
パシンと頬をぶたれたかと思えば、目の前には誰もいなくなっていた。
周防桃子
部屋にいるのは桃子だけ。部屋にあるのはお菓子の家具とオレンジジュース。それにクッキー。
周防桃子
「ちょ、ちょっと……春香さん?亜利沙さん?イジワルしないでよ!」
周防桃子
桃子の声が無為に響く。なんだか気味が悪くなって、玄関から外へ飛び出した。
周防桃子
「……っ!?」
周防桃子
桃子を出迎えたのは一面の黒と幾つもの紅い目。そして、カーという無機質な鳴き声。
周防桃子
立ちすくむ身に大きな影がよぎる。反射的に上を見るとそこには三本足の……
天海春香
「桃子ちゃん、大丈夫!?」
周防桃子
突然聞こえた春香さんの声にぱちりと目を開ける。目の前には見慣れた光景。
天海春香
「凄くうなされてたけど、大丈夫?いま、オレンジジュースを持ってきてあげるからね」
周防桃子
今のは、何だったんだろう。そう思いつつも夢でよかったと胸をなでおろし、春香さんを見る。
周防桃子
「まだ……夢、なの……?」
周防桃子
給湯室へ向かう春香さんの影には三本の足。そして床には黒い羽根が散らばっていた。
(台詞数: 50)