秋月律子
「やはり、このみさんもそう思いましたか……」
馬場このみ
「じゃあ、律子ちゃんの考えも一緒?」
秋月律子
「ええ、ひなたはキャラづくりをしているんだと思っています」
秋月律子
「それはそうとして……」
秋月律子
「何で千鶴さんがここにいるんですか?まさか、このみさん、ばらしたんです?」
馬場このみ
「え!?いや、その……」
二階堂千鶴
「私がこのみさんに問い詰めたんですわ。何か隠しているでしょうって」
二階堂千鶴
「まったく水臭いですわ、同じシアターの仲間だというのに……」
秋月律子
「すみません、問題が問題なものですから慎重に行きたかったんです」
二階堂千鶴
「まぁ……そうですわね。本当だとすれば一歩間違えるとスキャンダルですから」
馬場このみ
ふすまをノックされると、小川さんが鯛のカルパッチョを持ってきた。
馬場このみ
階段を降りて行ったのを確認すると、ホッと息をついて、声をより小さくして話を再開する。
二階堂千鶴
「律子は何か対策をとろうとしたことがあったのではなくて?」
秋月律子
「もちろんです。今の仕事に不満がないか、どんな仕事をやりたいか色々聞いたんですが……」
馬場このみ
カルアミルクに口を付ける律子ちゃんを私と千鶴ちゃんがじっと見つめる。
秋月律子
「ひなたからは、これまでどおりの仕事をお願いしますって言われまして……」
馬場このみ
「……ひなたちゃんって、そこまで消極的な子だったかしら?」
秋月律子
「いえ、ひなたはファンが自分に求めているキャラが分かっているんだと思います」
二階堂千鶴
「それはひなたの純真で正直なキャラクターということですか?」
秋月律子
「はい。ファンを喜ばせるために無理してそのキャラを続けているんだと思うんです」
秋月律子
「でも、その一方でファンを騙している自分がいることに気付いてしまったんでしょう」
馬場このみ
「ファンにウソをついていることに耐え切れなくて、悩んでるって訳ね」
二階堂千鶴
「……あれが演技だとは到底思えませんが、しかし」
秋月律子
「ええ、私たちは見てしまったんです。純真さと正直さを褒めた後のひなたの曇った顔を……」
馬場このみ
シャンディガフの泡が次々と浮かび、そして消えていった。
二階堂千鶴
「ひなたのキャラづくり、何とか止められませんの?」
馬場このみ
「急には無理ね。ひなたちゃんに来ている仕事には偏りがあるもの」
馬場このみ
「オファーを受けつつ新規の仕事を開拓すべきなんだけど、結局はひなたちゃんの決意次第よ」
馬場このみ
「……誰だって怖いし心細いもの。自分の知らない世界に飛び込むだなんて」
馬場このみ
……目が覚めたら5年後の知らない世界にいた時の、あの心細さが蘇る。
二階堂千鶴
「……一つよろしいかしら?」
二階堂千鶴
「キャラづくり自体は悪いことではありませんわよね?」
秋月律子
「ええ、ひなたのやっていることは、アイドルの一つのあるべき姿だとは思います」
秋月律子
「ただ、それがひなたにあっているかどうかというだけで……」
二階堂千鶴
「ええ、わたくしもそう思いますわ」
二階堂千鶴
「ならば、ひなたに合うキャラづくりの方法を模索するのも手ではなくって?」
馬場このみ
「……どういうこと?」
二階堂千鶴
「お忘れかしら?うちにはキャラづくりを徹底しているアイドル、いえ、"姫"がいることを」
秋月律子
「ま、まさか……」
二階堂千鶴
「ええ、そのまさかですわ。いっそのことキャラづくりのなんたるかを教え込ませればよいのです」
馬場このみ
「なるほど、餅は餅屋というわけね」
秋月律子
「……そう上手くいきますかね」
二階堂千鶴
「万が一、合う方法がなくとも彼女ならわたくしたちに思い付かない案を持っていると思いますわ」
秋月律子
「……」
馬場このみ
「やってみましょう、律子ちゃん。今は打てる手を打つべきよ」
秋月律子
「……分かりました。このみさん、改めてひなたをよろしくお願いします」
馬場このみ
「ええ、お姉さんに任せなさい!」
二階堂千鶴
「では、話も落ち着いたところで食事に戻りましょう。せっかくのお魚がもったいないですわ」
馬場このみ
場の空気が和らぎ、皆の箸がようやく進んだ。私も鯛のカルパッチョをつまんだ。
馬場このみ
口の中の甘味が心地よい。きっと、ひなたちゃんのことも良い方に進むはずだ。
(台詞数: 50)