最上静香
『ーー私には、アイドルの才能、あると思いますか?』
最上静香
(そう尋ねた私に答えを返すことなく、律子さんは私を外に連れ出した)
最上静香
(女性2人で夜道を歩くのは少し不安だけれど、そんな乙女心を抱く余裕は、今の私には、無い)
最上静香
(心の中にあるのは、焦りと不安だけ。私に残されている時間は、もうそれほど多くはない)
最上静香
(いっそ、引導を渡してもらえたらーーそんな後ろ向きな期待と、支えて欲しいという淡い希望)
最上静香
(自分勝手な願いを押し付けて、私は律子さんの言葉を待っている)
最上静香
(どれくらい歩いただろう。律子さんはまるで独り言のように語りかけた)
秋月律子
ーーねぇ静香、未来は今何をしてると思う?
最上静香
(突然現れた名前に、私は意図がつかめないながらも当たり障りのない答えを返した)
最上静香
さぁ……TVでも見てるんじゃないですか?あの子、TV大好きだから。
秋月律子
そうね、私もそう思うわ。
秋月律子
でもね、未来は実はここにいるの。
最上静香
(そう言うと、律子さんは胸の前で輪を作り、私に向かっていたずらっ子のように笑った)
秋月律子
ほら、ここ。1秒、2秒、3秒……。未来がずっと、ここにあるの。
最上静香
ーー私はそんな、言葉遊びをしたくて聞いてるんじゃないんです!!
最上静香
(どうしようもない焦燥感が、私の声を荒げさせる。アイドルが、なんて醜い音を出すのだろう)
最上静香
(それが自分の弱さを露呈しているようで、更に自分が情けなくなる)
秋月律子
(けれど、そんな私を見て。律子さんは怒るでも慌てるでもなくーー)
秋月律子
(ただ、微笑んでくれた)
秋月律子
……未来が、羨ましい?
最上静香
(すとん、と。私の中に入り込んだその言葉は、自然と私の弱さを心から押し出していて)
最上静香
分かってます…未来は明るくて、元気で、ああいう子が、アイドルになれるんだって……
最上静香
(押し出され、零れ落ちた言葉は、もう止まらない)
最上静香
分かってます!私はあんなアイドルにはなれないんだって!でも憧れて…その気持ちは消せなくて!
最上静香
でも私には出来なくて…分かってるけど!なりたくて!気持ちばかり焦って…悔しくて……
最上静香
もう……どうしたら良いのか、わからなくて…………
最上静香
(いつも明るく、元気で、気付けば横にいて、一緒に笑ってくれる素敵なアイドル)
最上静香
(なりたかった自分と、なれないと分かっている自分。理想を体現する、私の親友)
最上静香
(ーーそんな未来に嫉妬した)
最上静香
(ーーそんな未来に憧れた)
最上静香
(ーーそんな未来に、なりたかった)
最上静香
(自分がアイドルに向いていないのは、分かっていた。ただ、認めたくなかっただけなんだ)
最上静香
(そう結論に至った私を、目の前のプロデューサーは一蹴する)
秋月律子
ーーそう?こんな静かな夜に、寄り添うアイドルって悪くないと思うけど?
秋月律子
さっきの質問。あなたが未来みたいになれるかって意味なら答えはNOよ。それは無理。
秋月律子
けどね、あなたがアイドルとして輝けるか、って意味なら。そんなくだらないこと聞かないで。
秋月律子
あなたは未来にはなれない。けど、静香の未来は静香の中にしかないの。
秋月律子
あなたの信念を信じているのよ。私も、未来も。もちろん、プロデューサーも。
最上静香
(肩に置かれた手が、じん、と熱い。その熱は、私の汚い部分を優しく溶かしていくようでーー)
秋月律子
悩んでも良いし、迷っても良いわ。時間が無くて焦るのも良いの。けど、意志だけは曲げないで。
最上静香
(溶けた汚れは頬を伝い、こみ上げる感情の波は嗚咽にしかならないけれどーー)
秋月律子
そんなあなたの歌を、皆待ってるから。
最上静香
(頷くことでしか返せない私に、律子さんはいつまでも寄り添っていてくれた)
最上静香
(私にそんな歌が歌えるのか、自信はないけれど……)
最上静香
(ーーその夜、私は親友に一通のメールを送った)
最上静香
(件名もないその手紙には『待っててね』の五文字だけ)
最上静香
(『どこで!?どこで!?』と、彼女はわけがわからず慌てふためくだろうけれどーー)
最上静香
ーー待ってて。
最上静香
静かな夜、私は未来に会いにいく。
(台詞数: 49)