三浦あずさ
「……はぁ」
三浦あずさ
思わずため息がこぼれる。携帯のディスプレイを見ると、そこには7/20の数字が映っていた。
三浦あずさ
空を見上げる。闇夜に包まれた空は、なんとなくだけど雲に覆われているのが分かる。
三浦あずさ
ここから晴れるのか、それとも雨が降り出すか、私にはこれっぽっちも分からない。
三浦あずさ
…きっとひなたちゃんなら、簡単に見抜いちゃうんでしょうけどね。
三浦あずさ
ドラマの撮影のお仕事が終わって、事務所に戻る際中。ちょっとだけ寄り道しようと思い立って。
三浦あずさ
…結果はご覧の通り。案の定迷子になってしまっていた。
三浦あずさ
迷子になったまま、誕生日を終えてしまうなんてなんとなく私らしいと自嘲してしまう。
三浦あずさ
運命の人を見つけるためにアイドルになって、いろんな子といっしょにアイドル活動して。
三浦あずさ
毎日がとてもキラキラしていて楽しく、充実してると思う。
三浦あずさ
…けど、運命の人とは出会える気がしない。運命の赤い糸は絶賛迷子中。
三浦あずさ
出会える気がしない、というと語弊があるかしら。出会えているとは信じたい。
三浦あずさ
ただ…その運命の人にはライバルがとても多くて、どうもしり込みしてしまう。
三浦あずさ
一度鞄にしまった電話をもう一度取り出す。迷子になってしまったことを相談しようとして…。
三浦あずさ
指がぴたりと止まる。あの人は確か今日、外回りが終わってから直帰だと言っていた。
三浦あずさ
お仕事が終わっているのに電話するなんて申し訳なくて、気がひけてしまう。
三浦あずさ
かと言って。『迷子になった、どうしましょう』だなんて連絡を他の誰かにするのも…。
三浦あずさ
どうしようか決めかねながら歩いていると、適当な所にベンチを見つけた。
三浦あずさ
ベンチに腰掛けて、何となく空をもう一度見上げた。
三浦あずさ
暗くて分かりにくいけど、なんとなくさっきよりも雲が厚い気がする。
三浦あずさ
このままじゃ雨が降るかもしれない。そうなる前に適当なお店に入るべきなのかもしれないけど…。
三浦あずさ
残念というかなんというか、辺りには営業しているお店なんて一軒も見当たらない。
三浦あずさ
…如何わしいお店が多い地域や、飲み屋が多い地域に来てないことをよかった、と思うべきかしら。
三浦あずさ
…どこかから『でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?』って言われそうね。
三浦あずさ
確かに、根本的な解決にはなっていないのだけど。
三浦あずさ
「きゃっ!?」
三浦あずさ
ここから本当にどうしようかしら。そう途方に暮れていると、突然携帯が震えだした。
三浦あずさ
あわてて確認すると、ディスプレイにはあの人の名前。
三浦あずさ
「はい、あずさです。えっと…プロデューサーさん?こんな時間にいったいどうしたんですか?」
三浦あずさ
「…え?なんだか変な予感がした?えっと、別に困ってることはないんですけど…」
三浦あずさ
自然と嘘をついてしまう。困っていると言ったら、あの人はきっとここまで来てしまう。
三浦あずさ
そんな迷惑はかけられない、と思って口から嘘がついて出てきたのだと思うけど…。
三浦あずさ
「…声が沈んでる?…プロデューサーさんには嘘がつけないですね。実は…」
三浦あずさ
あっさりと見抜かれてしまう。意地を張っても仕方ないので、迷子になってしまったことを伝える。
三浦あずさ
「ええ、そうです…。近くに何か、ですか。えっと、暗くてよく見えないのですけど…」
三浦あずさ
何か目印になりそうなものを探す。と、確実に目印になりえるアート作品と思われるものが。
三浦あずさ
「あ!こういう名前の像…ですか?アート作品があります。」
三浦あずさ
「あ!こういう名前の像…ですか?アート作品があります…プロデューサーさんの家の近く!?」
三浦あずさ
どうやらここ、プロデューサーさんの家から徒歩10分圏内の所らしい。
三浦あずさ
「では、ここで待っていればいいんですね?こんな夜遅くにごめんなさい、プロデューサーさん…」
三浦あずさ
電話からは『謝らないでください』との声と、ドタバタとあわてたように駆け出す音。
三浦あずさ
…もしかして、着の身着のまま走ってくるのかしら。
三浦あずさ
「…それにしても、プロデューサーさんの家の近くだったのね。ふふっ」
三浦あずさ
口から少しだけ笑みがこぼれる。こういうべきじゃないのかもしれないけど…。
三浦あずさ
「こんな時間にまで迷子になって、ちょっと良かったのかも…?」
三浦あずさ
空を見上げる。まだまだ雲は見えるけど、さっきよりは晴れてきたみたい。
三浦あずさ
もしかしたら、このまま晴れるのかしら。ふふっ、まるで私の心模様みたいね♪
三浦あずさ
――――――――――。
三浦あずさ
「こんな夜遅くまでごめんなさい、プロデューサーさん。えっと、それで…」
三浦あずさ
「時間が時間だからプロデューサーさんの家で一晩……………え?」
(台詞数: 50)