三浦あずさ
夜空の月は雲に隠れたかと思えば
三浦あずさ
また顔を出したかと思えば
三浦あずさ
またひょいと身を隠し
三浦あずさ
その都度路地裏の闇は薄ら揺らいで
三浦あずさ
泥まみれの襤褸を纏った少女を映す
三浦あずさ
その全身を幾重にも、四肢や顔にまで巻かれた包帯もまた、酷く汚れ
三浦あずさ
赤茶色と黄土色に染まったその隙間から覗く瞳の宿す光は
三浦あずさ
あまりに弱々しく
三浦あずさ
果たして生きているのかすら甚だ怪しく
三浦あずさ
けれどもその視線は私を見据え
三浦あずさ
私はそれに射竦められた様に
三浦あずさ
ただ呆と立ち尽くす
三浦あずさ
背筋に覚えた寒気は
三浦あずさ
少女の視線に気圧されたのか
三浦あずさ
否、云わば真逆の
三浦あずさ
今にも潰えそうな、あまりに薄い生気
三浦あずさ
震えを隠して私はしゃがみ込み
三浦あずさ
少女の瞳を覗き込み、尋ねる
三浦あずさ
何故その様ななりで、この様な夜更けにこの様な所に居るのかと
三浦あずさ
少女曰く
三浦あずさ
自分の皮膚は病によって半ば以上爛れており
三浦あずさ
その病は他人に伝染る為、この様な誰も来ないであろう場所にてじっとしているのだから
三浦あずさ
だから貴方も直ぐに立ち去るべきであろうと
三浦あずさ
続けて尋ねる
三浦あずさ
貴方を庇護する者は居ないのかと
三浦あずさ
少女曰く
三浦あずさ
両親含めて誰もかれもが、自分の皮膚を気色悪いと恐れるので
三浦あずさ
迷惑となるのは心苦しく、此処に居ることにしたのだと
三浦あずさ
続けて尋ねる言葉を失い
三浦あずさ
却って少女が、私に尋ねる
三浦あずさ
何故貴方は、泣いているのか、と
三浦あずさ
同情、憐憫、そんな偽善じみた言葉が適当なのかも知れないが
三浦あずさ
何を思うでもなく
三浦あずさ
ただ
三浦あずさ
そっと
三浦あずさ
少女を
三浦あずさ
抱きしめ
三浦あずさ
少女は一瞬身を震わせ
三浦あずさ
痛い、と呻いたきり
三浦あずさ
ただじっと、うずくまったまま
三浦あずさ
泥に汚れた、その震える小さな手で
三浦あずさ
私の腕に、しがみ付いた。
三浦あずさ
気付くと私は
三浦あずさ
ベッドの上に横たわり
三浦あずさ
天窓から覗く弦月が、青い光で部屋を埋めていた
三浦あずさ
それは夢であったのか
三浦あずさ
頬を濡らした跡と
三浦あずさ
シャツの袖に付いた泥の跡
三浦あずさ
肌の感触、躰の温もり、咽び泣く声
三浦あずさ
決して忘れ得ぬ、生の痕跡。
(台詞数: 50)