エミリー
...冷たい手が私の手を引いて行く
エミリー
...手は冷たかったけれど、不思議と、怖い、という感情は沸き上がらなかった
エミリー
...代わりに湧き上がってくるのは、行き場の無い悲しさ、寂しさでした
エミリー
...それはきっと、私の手を引いている彼女から伝わってきているものなのでしょう
エミリー
...私の後ろに続いている、杏奈さん、可奈さん、翼さんにも伝わっているのでしょうか?
エミリー
...暫く、深淵に閉ざされた樹の海の中を進むと、彼女は急に立ち止まった
三浦あずさ
もう、手遅れなのかもしれません・・・
三浦あずさ
いや・・・でも、諦めるわけには・・・
エミリー
...独り、自問自答をし始める背中に向かって、私は言葉を投げかける
エミリー
あの・・・本当に・・・大丈夫なのでしょうか?
エミリー
...小刻みに震える、私の声と手、それは私が不安定な精神状態にあることを示していた
エミリー
...杏奈さんも、それに呼応するようにぎゅっと私の手を強く握りしめます
三浦あずさ
すみません、怖いですよね、でも・・・大丈夫です
三浦あずさ
ニタァ・・・
エミリー
...暗闇に怯えきっている私達に気付くと、彼女は振り向いて、そう言葉をくれた
エミリー
...不気味なその笑い顔も、私達を安心させるため、不器用なりに作ってくれていたのでしょう
エミリー
...その不気味な笑い顔が、暗闇の中で私達が唯一見いだせた、希望の光だったのかもしれません
三浦あずさ
あの、ここからは、やはり皆さんは、目を瞑ってください、そして決して開けないでください
エミリー
...彼女に言われるがまま、私は目を瞑った、後続の皆も閉じたのだろう、再び歩き始める
エミリー
...視覚を捨てたからだろうか、代わりに聴覚が段々と冴えてくる
エミリー
...木々が風に揺さぶられて、ザーザーとしている音が聞こえてくる
エミリー
...ん?それに混じって・・・何か他の音が・・・近づいて・・・
三浦あずさ
「か~ごめ~、か~ごめ~、か~ごのな~かのと~りは~」
三浦あずさ
「い~つ、い~つ、で~やる~」
三浦あずさ
「よ~あけ~のば~んに、つ~るとか~めがす~べった~」
三浦あずさ
「うしろのしょうめんだ~あれ?」
エミリー
...私には馴染みの薄い、なにやら・・・不気味な童謡のようなモノが聞こえてくる
エミリー
...まるで耳元で囁かれているかのように、はっきりと、それは歌われている
三浦あずさ
大丈夫です、無視してください
エミリー
...後ろの方から聞こえてくる、皆の啜り泣く声に気付いて、彼女はそう言いました
三浦あずさ
決して振り向かないでください、決して目を開けないでください
三浦あずさ
決して握ったその手を離さないでください、私を・・・信じてください
三浦あずさ
そうですね・・・何か楽しいこと・・・幸せな一時を頭の中に思い浮かべていてください
エミリー
...藁にもすがる思いで、私も彼女の言葉に縋ります
エミリー
...楽しい事・・・幸せな一時・・・
エミリー
...星梨花や・・・皆と過ごす時間を思い浮かべる
エミリー
...しかし、その間も容赦なく、歌は終わる様子もなく、ずっと聞こえてきます
エミリー
...私達の心を挫こうとするかのように、ずっと耳元で・・・
三浦あずさ
「か~ごめ、か~ごめ~、か~ごのな~かのと~りは~」
三浦あずさ
「い~つ、い~つ、で~やる~」
三浦あずさ
「よ~あけ~のば~んに~、つ~るとか~めがす~べった~」
三浦あずさ
「うしろのしょうめんだ~あれ?」
三浦あずさ
「か~ごめ、か~ごめ・・・」
三浦あずさ
「か~ごのな~かのと~り~は・・・・・・・」
エミリー
...どのくらいの時間が経ったのかは、皆目、見当もつきません
エミリー
...これは私の体感時間なので、実際には、そんなに大した時間は経っていないかもしれません
エミリー
ただ、その歌は、着実に、段々と耳元から遠のいていっているようでした・・・
三浦あずさ
「うしろの・・・・しょうめん・・・だ~あれ・・・・・・・」
エミリー
...それを最後に、歌はもう聞こえなくなりました、残響もなく、とても静かです・・・
三浦あずさ
いいですよ、もう大丈夫ですから、目を開けてください
(台詞数: 50)