桜の猫
BGM
絵本
脚本家
不明
投稿日時
2014-12-01 00:17:15

脚本家コメント
猫という生物は面白いもので、例えば見えない物を見てたりするんじゃないかという風に変な空間を凝視していたり、はたまた好奇心旺盛にいたずらをしたり。気まぐれで出来ているような彼らはとても真似できません。

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双海真美
「良し、ここらで良ゐだらう。」
双海真美
そう云ふと彼は座り込んで私を膝に置き、撫で伏せる。
双海真美
その心地良さに、私はつらつら、眠りの中へ堕ちてゐつた。
双海真美
─冬の薄ら寒い段ボオルの中、私は噎び泣ひてゐた。
双海真美
「をうをう、捨てられたのか。どれ、こつちへ來いよ。」
双海真美
ぼさぼさ頭で丸眼鏡の男はさう言つて私を抱き上げ、其のまま宅へと私を置いた。
双海真美
酷く居心地が良かつたから、私は其のままぐつたり住み着いてしまつた。
双海真美
彼も私を追ひ出す氣はないらしく、此れはしたりと寛いでゐると彼は何故か赤い輪を手にしてゐた。
双海真美
私は間拔けなことに、其処でようやく自分に御主人が出來るのだと察した。
双海真美
何故だか其の冬は、いつにも増して暖かかつた。
双海真美
其れから私は樣々初めての物を知つた。炬燵に蜜柑に─みるくと云ふ寶水も中々のものだつた。
双海真美
季節が過ぎて春に成ると花見に連れて行かれ、夏の鹽水を浴びて遊び、秋には銀杏の葉を食した。
双海真美
其の樣な春夏秋冬を何度繰り返した頃だらう。宅に見知らぬ女性が入つて來た。
双海真美
彼は化粧で正體を得ない其の女性に對して妙に恭しく、何故か頬を紅潮させてゐた。
双海真美
女性は鷲鼻をくんくん搖らすと、臭ひだのなんだのにいきなり文句をつけ始めた。
双海真美
聖域を荒らされた私は酷く不愉快に成り、その太太しい女に對して唸りを上げた。
双海真美
すると女は「まあ、何よ此の雜種は。氣持ちが惡いつたらあれあしない。」と言ひ放つた。
双海真美
私は途端に怒り狂つて、女の顏に斜線を次々入れていつた。
双海真美
女は酷く喚き散らし、ふんふんと鷲鼻を鳴らして眞つ赤に成つて出て行つた。
双海真美
彼は暫く呆然としてゐたが、少し微笑み私を抱き上げかう言つた。
双海真美
「君は雜種なんかぢやあ、ないよなあ。」
双海真美
さう言ひ乍らも顏には哀しさが宿り、頬は薄ら濡れてゐた。
双海真美
すると何を思つたか、彼はすぐに私を車に乘せ──
双海真美
そして今私は彼の膝に乘り、上に櫻の木を見てゐる。
双海真美
何度も見てきた景色だつたが、今日のは一段と鮮やかに冩つた。
双海真美
こんな瞬間が永遠に續けばいいのになあ、何の變哲もなくさう思つた。
双海真美
そして私は眠りについた。起きても彼の膝に置かれ、またいつもの樣に出會えることを信じて。
双海真美
目を閉ぢる。目を。
双海真美
挨拶を、しなければ。いつもの樣に。
双海真美
おや、すみ な
双海真美
おやすみ な さい 。
双海真美
御主 人 樣。
双海真美
───私はそうやって
双海真美
眠つた。

(台詞数: 34)