二階堂千鶴
優梨愛が商店街を去って数日経つ。
二階堂千鶴
なんということはない、以前の生活に戻るだけ。
二階堂千鶴
そう割り切っているものの、どこかで彼女の幻影を捜している。
二階堂千鶴
お惣菜の配達を終えると、私はいつの間にか駅前に足を運んでいた。
二階堂千鶴
彼女がいなくなってからの日々、私は毎日ここを訪れている気がする。
二階堂千鶴
だがそこには誰もいない。そこには彼女がいた痕跡すらも残されていない。
二階堂千鶴
寂しいものだ。
二階堂千鶴
誰一人として気にも止めず、働きアリのような人々の群れは歩みを止めることはない。
二階堂千鶴
誰の記憶にも彼女の姿は、音楽は刻まれなかったということなのかしら。
二階堂千鶴
ここは相も変わらず忙しなく人々が行きかい、賑わっている。
二階堂千鶴
しかし、私から言わせてしまえば、ここは寂れてしまった。
二階堂千鶴
「寂れてしまったわ…」
二階堂千鶴
空を見上げると、それはどこまでも蒼く、どこまでも続いている。
二階堂千鶴
彼女もこの蒼空をどこかで見ていてくれるのかしら。
二階堂千鶴
たとえばあの雑居ビルの屋上で、缶コーヒーでも飲みながら…
二階堂千鶴
溜息を吐いて、弱音を吐いて、愚痴を零して、夢を語って。
二階堂千鶴
誰かと思いを共有しているのだろうか。
二階堂千鶴
出来る事なら、私もそこに混ざりたい。
二階堂千鶴
ジュリア、あの日から、私達は住む世界が変わったでしょう。
二階堂千鶴
もし同じドアをくぐれたら…
二階堂千鶴
私も、そちら側にいけるのでしょうか。
二階堂千鶴
たまに、そんなことを考えてしまうのよ。
二階堂千鶴
視線を落とすと、そこにはやはり誰もいない。
二階堂千鶴
「やはりここは…」
春日未来
「インパクトがなくなりましたね!」
二階堂千鶴
「イ、インパクト?」
春日未来
「はい!インパクトです!!」
春日未来
「ほんのちょっと前では、あるストリートミュージシャンがいたんです」
春日未来
「ジュリアさんっていうんですけど…」
二階堂千鶴
「ああ、あなたはファンなのね」
二階堂千鶴
ああ、ジュリア、あなたはちゃんと…私以外の誰かの心に…
二階堂千鶴
音色を、歌声を刻むことができたのね。
二階堂千鶴
それが、インパクトってことなのかしら。
春日未来
「えへへ…私、そうみたいです…って…あっ!」
春日未来
「コロッケのお姉さん!!」
春日未来
「お姉さんもファンなんですか?」
二階堂千鶴
「ま、まあ、そうなるわね」
春日未来
「そうなんだ、コロッケのお姉さんの心にも響いたんですね」
春日未来
「コロッケのお姉さん…」
二階堂千鶴
「あの、その呼び方やめてくれないかしら?」
春日未来
「あっ、すいません」
春日未来
「こほん…お姉さんも寂しいですか?」
二階堂千鶴
「寂しくない…なんて言ったら嘘になるわね」
春日未来
「そうですよね。私も寂しいです」
春日未来
「私の心に大きな穴が空いちゃうくらいのインパクトだったんですから!」
春日未来
「ジュリアさんの歌は、心がドキドキ~ってして、ワクワク~ってするんです」
春日未来
「だから見ていて、眩しいけど、真直ぐで見惚れちゃうんですよね。憧れちゃうんですよね」
春日未来
「あの…お姉さん!私!!やりたいことがいっぱいあるんです!!!」
春日未来
「でも…やりたいことが多すぎて、何をしたらいいかわからないんです」
春日未来
「お姉さんはやりたいこと、ありますか?」
(台詞数: 50)