ジュリア
『新しい名前を見つけてきなさい』
ジュリア
あたしをスカウトしてくれた男からそう言われてから数日経った。
ジュリア
けど、未だにあたしは"名前"を見つけることが出来なかった。
ジュリア
迷宮入りしてしまった事件のように、といえば少し失礼かもしれないが…
ジュリア
それくらい、あたしに自身の名前を付けろという課題は難題だ。
ジュリア
考え込んでいると、歌もギターもなかなかうまくできやしない。
春日未来
「こんばんは!!」
ジュリア
声を掛けられて、あたしは顔を挙げる。そこにいたのはいつかの少女だった。
ジュリア
「なんだよ、あたしは今考え事を…」
春日未来
「お姉さん、今日は顔が暗いね」
ジュリア
「そ、そうか?」
春日未来
「うん、すっごく怖いです!歌っている時の顔とは全然違います!!」
ジュリア
「あはは、そっか」
春日未来
「なにか、考え事ですか?」
ジュリア
「そうだよ。てか、それはさっき言ったろ!」
春日未来
「えへへ、そーでしたっけ?」
春日未来
「それで何を考えていたんですか?」
ジュリア
「名前」
春日未来
「名前?誰のですか?」
ジュリア
「あたしの名前を決めなくちゃいけないんだ」
春日未来
「どうしてですか?」
ジュリア
「デビューしたいから」
春日未来
「お姉さんデビューするんですか!?すごい!サインください」
ジュリア
「サインって言われてもな、名前がないとサインのしようもないだろ?」
春日未来
「あっ、確かに言われてみればそうですね」
春日未来
「お姉さん、名前は…?」
ジュリア
「それは…言えない」
春日未来
「そうですか…」
ジュリア
「何かさ、良い名前ないかな?」
春日未来
「ん~、そうですね~…じゃあ、ぷぅちゃん!」
ジュリア
「なんでぷぅちゃんなんだよ!」
春日未来
「だって、お姉さん仕事もしてないし、学校にも行ってないですよね?」
春日未来
「夢ばっか見て、ぷらぷらしてるからぷぅちゃんです!」
ジュリア
「なんだそれ、却下だ!却下!ど却下!!」
春日未来
「そっか~、そうですよね~…面白いと思ったんですけど、残念です!」
ジュリア
「面白そうとかで決めるな!あたしは真剣なんだ」
春日未来
「はい、知ってます…あの、いいですか?」
ジュリア
「なに?」
春日未来
「お姉さんの"名前"は、お姉さんの本名を知ってる人が付けたほうが良いと思います」
ジュリア
「どうしてそう思うんだ?」
春日未来
「だって、その人の方がお姉さんの事をよく知ってると思います」
春日未来
「それに、その人ならぜ~ったい、お姉さんが大切にしたい名前をくれると思います」
春日未来
「だって、お姉さんの夢を尊重してくれる人のはずですから!」
春日未来
「あっ、私、そろそろ帰らなくちゃ!!」
春日未来
「それじゃ、またいつか、どこかで会いましょう!」
春日未来
「素敵な名前が見つかるといいですね、名無しのお姉さん!」
ジュリア
そう言って、少女はその場を小走りで去っていく。
ジュリア
『夢は夢として眠るときにみるものでしょう?』
ジュリア
『その綺麗な目をしっかり開いて、あなたの夢、追いかけなさい』
ジュリア
あたしの名前を知る人の、二つの言葉が、あたしの脳裏を廻っていた。
(台詞数: 50)