春日未来
『もう、この城はどうなってるの!』
春日未来
『国民のことは考えない!毎日ソシャゲへの課金三昧!お金儲けのことばっかり!』
春日未来
『こうなったら……こんなお城出て行ってやるんだから!』
最上静香
舞台の中央、照らされたスポットライトの中で私の友人、春日未来が声を張り上げている。
最上静香
はじめ、未来から舞台で主役をやると聞いたときはびっくりしたが……
春日未来
『あ、そうだ!せっかくだから国のみんなに米俵を配ってから出て行こうっと!でへへ～』
最上静香
どうやらぴったりの役みたいだ。私は座席に深く座り直す。
春日未来
『う～ん……このあとどうすればいいんだろう?』
最上静香
舞台装置が変わり背景が森になる。奥から水着姿の男が2人現れた。
春日未来
『ええっ!私が勇者!?何かの間違いでしょ、妖精さん?だって、私は隣の国の姫だよ!』
最上静香
……この演劇のチケットは、未来からもらう前にプロデューサーからもらっていた。
最上静香
今の私の役に立つからと言って、強引に渡されたのだが……。
春日未来
『すごーい!こんな特殊能力が私にあったなんて!』
最上静香
未来が出ているから観ていられるけれど、こんなコメディが果たして役に立つのだろうか。
最上静香
私も未来もアイドルとして未熟。確かに演劇は表現の幅は広がるかもしれないけれど……
春日未来
『この力があれば私たちの国を変えられるかも!待っててね、みんな!』
最上静香
未来が舞台袖へと消えていくと、会場は闇に包まれた。
最上静香
「……変えられる、か」
最上静香
ぼそりと呟いた言葉に隣の客が反応する。すいませんとそっと会釈を返す。
春日未来
『衛兵さん!私のこの力で目を覚ましてください!え～い!』
最上静香
ふと授業で習った歌を思い出した。花が色あせるように自分が年老いていくことをはかなんだ歌を。
春日未来
『でへへ～、これで私とお友達になれましたね!フレンズですよ、フレンズ!』
最上静香
魔法なんてない。一瞬にして変わることなんてできない。だから、私たちには時間がない。
最上静香
のんびりしていたらトップになんかなれないまま、あっという間に、歳をとってしまう。
春日未来
『え?私と友達に?あなたにはまだ力も使ってないのに』
春日未来
「ええっ!あの時の米俵で命が助かったの!ホント!」
最上静香
そうだ、とりあえず動かないと変わらないのだ。動かないと……
最上静香
動けば、本当に変わるのだろうか……
春日未来
『さぁ、王様、観念してください!国のみんながこっちにつきましたよ!』
春日未来
『ええっ!?王様も友達になりたい!?ずっとそうしたかった!?』
最上静香
……都合のいい話だ。プロデューサーはこんな話を見せたかったのか。
春日未来
『よ～し、じゃあ、みんなで踊りましょう!』
最上静香
フィナーレのダンスが始まった。未来はセンターで皆を引っ張るように踊っている。
最上静香
……未来が、みんなを?そういえば、最初の頃って……
春日未来
『みなさーん!今日は「近未来の童話劇」を観に来てくれてありがとうございました!』
最上静香
ダンスもままならなかった未来が、シアター以外の人たちと息の合ったダンスを……
春日未来
『明日も明後日もやりますので、お友達を誘って見に来てくださいね!』
最上静香
観客席からの拍手に合わせて水着の男性がバク転を華麗に決めてからのサムズアップで応じた。
春日未来
『はーい、じゃあ、撮影タイムでーす。いきますよー!』
最上静香
気付かないうちに未来は変わっていたのだ。だったら、私だって……
春日未来
「あー!誰ですか、今すしざんまいポーズって言ったの!違いますよ!」
最上静香
会場に笑いが起こる。私はそっと席を立った。
最上静香
ロビーの椅子に腰かける。ひんやりとした空気がすがすがしく胸に入ってくる。
最上静香
「そうよね……今までだって無駄に過ごしてきたわけじゃないもの。きっと……」
最上静香
ドアが開く。大勢の人が上気した顔で出てきた。私も家に帰ろうか。でも、その前に……
最上静香
振り返るとカラーコンタクトを付けたまま今日の主役が走ってくるのが目に入る。
最上静香
ふぅっとため息が出る。
最上静香
とりあえず、がんばった未来をギュッと抱きしめよう。
最上静香
今の私にはそれぐらいの時間はあるはずだ。
(台詞数: 49)