春日未来
「これが…本物の私?」
七尾百合子
「はい」
七尾百合子
「そして、貴方が帰るべき場所です」
七尾百合子
病室のベッドに、"未来"と瓜二つの少女、"春日未来"がぐっすりと眠っている。
春日未来
「その…」
七尾百合子
「どうかしましたか?」
春日未来
「本物の私とお話はできないの?」
七尾百合子
「残念だけど、それはできません…」
春日未来
「どうして?」
七尾百合子
「それは春日未来の時間が止まっているからです」
七尾百合子
「つまり、貴方が春日未来の元へ帰るまで、彼女は目覚める事ができないんです」
春日未来
「じゃあ私はどうしたらいいの?」
七尾百合子
「その選択は、貴方に委ねる事にします」
七尾百合子
「春日未来が終わらぬ夏を望んだのも事実…」
七尾百合子
「その願いが叶う代わりに、眠りにつき、貴方を生み出したんです」
七尾百合子
「なので、その運命は貴方に委ねます」
七尾百合子
「彼女の未来を決めるのは、"未来"、貴方なんです」
春日未来
「もし、私が彼女の元に帰るのを拒んだら、どうするの?」
七尾百合子
「どうもしません…」
七尾百合子
「どうもできません…」
七尾百合子
「ただ、私達は春日未来を置いて、その先の未来に進むと思います」
七尾百合子
「けれど、貴方は、私達が"あの夏"だと思い出す世界に居続けるだけ…」
七尾百合子
「その時、ビー玉の様な記憶の世界に捉えられてしまった貴方はどこにも戻れないんです」
七尾百合子
「はじめは、私達も未来ちゃんの事を思い出せると思うし、寂しいと感じるかもしれません」
七尾百合子
「けれど、時が経てば、きっと、未来ちゃんとの記憶には霞がかかったように…」
七尾百合子
「なにも、思い出せなくなると思います…」
七尾百合子
「そして、それを寂しいとも思わなくなると思います」
七尾百合子
「それって、本当に寂しい事だと思いませんか?」
七尾百合子
「私はこの先、仮に未来ちゃんがいない未来を歩むことになったとしたら…」
七尾百合子
「そんな未来はとっても悲しいと思います」
七尾百合子
「きっと、それは他の皆さんも同じだと思うから…」
春日未来
「そっか…」
春日未来
「みんな、未来ちゃんのいる未来に行きたいんだ」
春日未来
「みんな、もうひとりの私のことを恋しいと思うんだ」
春日未来
「なんだか羨ましいな…」
七尾百合子
「私は楽しかったですよ」
春日未来
「え?」
七尾百合子
「貴方と過ごしたちょっぴり長い夏休み最後の一日、とても楽しかったです」
七尾百合子
「だから、貴方は、未来ちゃんはこの夏の日々を忘れてしまうかもしれませんけど…」
七尾百合子
「私は忘れません」
春日未来
「そっか…」
春日未来
「なんだか少し、救われた気がしたよ」
春日未来
「ありがとう、百合子ちゃん」
七尾百合子
彼女はビー玉を一つ取り出すと、眠る春日未来の手にしっかりと握らせる。
春日未来
「私が目覚めたら、このビー玉を大切にするように伝えてくれないかな?」
春日未来
「これは、私がここに存在した、唯一の証だから…」
七尾百合子
「必ず伝えます」
春日未来
「それじゃ、みんなの未来が待ってるから、私はもう行くね」
七尾百合子
少女は私にそう別れを告げると、眠っている春日未来の顔を見据え、寂しそうな表情を浮かべる。
春日未来
「私の夏休み、終わっちゃった…」
(台詞数: 50)