春日未来
――不思議な夢を見た。
春日未来
――私は静香ちゃんの隣に座って、小さなガラス球をのぞき込んでいた。
春日未来
――ガラス球に写し出されていたのは、空が地面になって、地面が空になった世界。
春日未来
――逆さまになった世界がぐらりと揺れて…。
春日未来
――見知らぬ、けど懐かしさを感じる駐車場になった。
春日未来
――心に響く風景に涙が流れそうになる。真夏の陽炎のような、そんな儚い世界は。
春日未来
『PiPiPiPiPiPi!』
春日未来
――携帯電話からけたたましく響く着信音のせいで、ラムネの泡のようにはじけて消えてしまった。
春日未来
――――――――――。
七尾百合子
『未来、今日予定ある?予定がなかったら午前9時に事務所に来て!』
春日未来
電話をしてきたのは百合子だった。興奮した様子でそれだけ言うと、プツッっと電話が切られた。
春日未来
自転車を駆って事務所に急ぐと、そこには私を呼び出した百合子と瑞希ちゃんがいた。ただ…。
春日未来
「百合子…その恰好はどうしたの?暑くないの?」
春日未来
百合子は、いつかのイベントで着ていた魔女の衣装を着ていた。床には何かの模様が描いてある。
七尾百合子
「未来、夏休みがもっともっと欲しくない?欲しいよね?ね!」
春日未来
「ねえ、百合子…。もしかして暑さで疲れちゃった…?病院に行こっか…」
七尾百合子
「うっ…。まさか未来に心配されるなんて…」
春日未来
「私が心配しちゃダメなの!?」
春日未来
私が思わずツッコミを入れるも、未来のツッコミは聞いてない、といった風に百合子が続ける。
七尾百合子
「昨日図書館で見た雑誌に、時間を延ばせそうな黒魔術らしき何かが書いてあったの!」
真壁瑞希
「そうな、らしき何か…嫌な予感しかしないのですが。不確定な要素が多すぎませんか?」
春日未来
大丈夫!と胸を張る百合子は、不安がる瑞希ちゃんをよそに魔法陣の真ん中に変な色の液体を零す。
春日未来
そのまま、何か呪文のようなものをぶつぶつとつぶやき始める。しばらくすると…。
七尾百合子
「我は求め訴えた…りっ!?」
春日未来
魔法陣が真っ黒な煙を吐き始めた。煙がものすごく酸っぱいにおいで、とっても目に染みる!
春日未来
「げほっげほっ…うっ!?百合子…これで合ってるの!?」
七尾百合子
「窓!!誰か窓を開けて!!目が痛い!!目が…!目がぁ~!!」
春日未来
魔法陣の外にいた私ですら目が痛いんだから、真ん中にいた百合子はもっと辛いらしい。
春日未来
…瑞希ちゃんが冷静に窓を開けてくれたおかげで、事なきを得ました。
春日未来
――――――――――。
真壁瑞希
「そもそも、七尾さんはどうして夏休みを伸ばそうとしたんですか?」
春日未来
確かに、それは私も気になってた。正座している百合子を問い詰めると、がくっと肩を落として。
七尾百合子
「…宿題が終わってないの。もう、8月31日なのに」
真壁瑞希
「宿題…ですか?プロデューサーからは、学業も疎かににしないようにと忠告されてましたけど」
七尾百合子
「うん…。読書感想文を書こうと思って本を読んでたら、次々本を読んじゃって気が付いたら…」
真壁瑞希
「時間が無くなっていたんですね。七尾さんらしい話です。くすくす」
七尾百合子
「わ、笑い事じゃないってば~!未来は私の仲間だよね!」
春日未来
宿題。その言葉に、私の顔から血の気がさぁっと抜ける。
春日未来
「どどど、どうしよう百合子!瑞希ちゃん!!宿題の事忘れてたよ~!!」
春日未来
百合子以上に慌てふためく私。お仕事にレッスン、たまの休みはお出かけしてたら宿題が真っ白!!
春日未来
きっと真っ青になってる私の顔を見た瑞希ちゃんは、こう言ってくれた。
真壁瑞希
「では、今から春日さんの家で勉強会をしましょう。乙女ストームのお姉さんに任せなさい」
真壁瑞希
――――――――――。
七尾百合子
「未来のお母さん、晩御飯までありがとうございます。美味しいカレーでした!」
真壁瑞希
「宿題の方はあらかた終わりました。あと少し、頑張ってください。ファイトだぞ」
春日未来
すぐに家に戻った私たちは、瑞希ちゃん指導のもと宿題を頑張った。時間はもう8時を回ってる。
春日未来
二人を見送った後、再び机に向かう。よしっ!宿題はあとこの一冊の半分だけ!!
春日未来
カリカリ……カリカリカリ……けしけし…カリカリカリ…。
春日未来
……カリカリ……ペラッ…。
春日未来
……すぅ…すう。
(台詞数: 50)