春日未来
パチパチパチパチ!
ジュリア
『お姉ちゃん、歌上手いね』
ジュリア
演奏の後、耳に入って来た拍手の音はいつかの少女を連想させる。
ジュリア
あの少女には悪い事をしたな…
ジュリア
今も何処かで元気にやっているんだろうか…
ジュリア
そんなことを知るすべはあたしにはない。
ジュリア
他人の心配をする暇があるならば、自分の心配をしたほうがいいだろうな。
春日未来
「歌、お上手ですね!!」
ジュリア
その声に、別の世界へ行きかけていた私の意識は現実へと引き戻される。
ジュリア
目の前には笑顔の眩しい女の子がいた。
ジュリア
あたしより、少し年下くらいだろうか…
ジュリア
拍手の主は、この女の子のようだった。
ジュリア
「あ、ありがとな」
ジュリア
褒められて気分の悪くなる人なんていないよな?
ジュリア
あたしもそうだ、勿論嬉しいに決まってる。
春日未来
「あの、ちょっと待ってくださいね」
ジュリア
年下の女の子はニコリとそう言ってから、手に持っていた鞄をガサゴソと漁りだす。
ジュリア
そうか、いつの間にか、あたしにもファンが出来ていたんだな。
ジュリア
「あのさ…そういうのは…ちょっと…」
春日未来
「はい、これ!」
ジュリア
鞄の中から取り出したのは見覚えのある紙袋で…
ジュリア
中からは、仄かに懐かしい香りが、あたしの鼻まで漂ってくる。
ジュリア
「これは…」
春日未来
「コロッケです!!」
ジュリア
「それはわかってるよ、でもなんでこれを…」
春日未来
「えっと…ですね。さっき、あ~っちの方にいた…」
ジュリア
女の子はそう言って少し遠くの方の外灯の下を指差す。
春日未来
「サングラスととっても、と~っても大きな帽子とコートをしているお姉さんに…」
春日未来
「歩いていたら呼び止められて、これを届けて欲しいってお願いされました!」
春日未来
「初めは不審者かと思って、断ろうと思ったんですけど…」
春日未来
「私の分までコロッケをくれたので、お願いを聞くことにしました!えへへ♪」
春日未来
「お知り合いじゃないんですか!?」
ジュリア
あの外灯の下に、変装なんて凝った真似をしてまで…
ジュリア
あたしにコロッケを届ける人物で心当たりがあるのは一人しかいない。
ジュリア
わざわざ、街中を回って、あたしのことを見つけ出したのだろう。
ジュリア
不思議そうにあたしの顔を覗きこむ年下の女の子からコロッケを受け取る…
ジュリア
「ああ、知り合いだよ」
ジュリア
「ただの、知り合いなだけ、だけどな…」
ジュリア
看板娘がいた外灯の明かりを横目に、あたしはそう付け加えた。
ジュリア
どんな気持ちで、あの店の看板娘はあたしを探し回ったんだろう?
ジュリア
どんな気持ちで、あたしなんかにコロッケを届けてくれたんだろう?
ジュリア
どうして、あたしなんかのことを気にかけてくれるんだろう?
ジュリア
自問自答を繰り返しても、あたしはあの人じゃないからわかりようがない…
ジュリア
ただ、あの外灯から見守ってくれていた看板娘は…
ジュリア
あたしには、まだ居場所があることを教えてくれているような気がした。
ジュリア
その味を確かめる様に、あたしはコロッケを口元へと運んでいく…
ジュリア
サクッ…
ジュリア
「……」
ジュリア
「…………」
ジュリア
「…おいしい」
(台詞数: 50)