北沢志保
─これは知り合いの若手プロデューサーさんから聞いた話なのだけれど
北沢志保
そのプロデューサー…そうね。以下、名前はTとでもしようかしら
北沢志保
Tは普段、市販の水色の大学ノートにドラマのネタや台本を書き溜めているらしいの
最上静香
大学ノート?ネタ帳代わり、ってこと?
北沢志保
そうね。担当アイドルの色に近い、ということで水色を使っているらしいわ
北沢志保
大まかな構成や小ボケ、セリフが思いついたらメモして、それを持ち歩いているようね
最上静香
携帯のメモ機能の方が早くない?
北沢志保
本人曰わく、『ネタは退屈な授業中ほど浮かんでくる』だとか
最上静香
なるほど。授業中は携帯出せないものね
北沢志保
コホン、それで。Tの高校は今、夏期講習期間らしいの
北沢志保
夏期講習と言っても受験に直結する内容だから、極力出席が望ましいとされているわ
最上静香
高校生なんてそんなものなのかしらね
北沢志保
─数日前。数学の講習の終わり際に、ノート提出が求められたらしいの
北沢志保
講習で扱った内容に対応した問題を解いて来て添削して貰う、という課題だったようね
北沢志保
Tは課題を解いたノートを鞄の中から取り出して教卓に置き、普通に友人と帰ったらしいわ
最上静香
…今のところ問題はなさそうだけど
北沢志保
─その夜。勉強を終えたTは息抜きにドラマを書こうと思い、鞄をまさぐったの
北沢志保
─でも、そのネタ帳が見つからない
北沢志保
あれ?俺今日も鞄に入れたよな?どこやったっけ?
北沢志保
誰かに盗られたのかな?でも、こんなの盗ってどうするんだ?
北沢志保
それでミリマスに興味持ってくれるならいいけどさ……などと考えてたそうよ
最上静香
他の人から見たらただの殴り書きだものね…価値は無いに等しいわ
北沢志保
そんな時、ファイルの隙間に一冊のノートが挟まっているのを見つけたらしいの
北沢志保
なぁんだ、挟まってただけか
北沢志保
そう思ってノートを引っ張り出したら──
北沢志保
──表紙には『夏期数学 提出用』と書かれていたの
最上静香
…えっ
北沢志保
Tは一瞬混乱したわ
北沢志保
あれ?さっき提出したよな?それが何故ここに??
北沢志保
─混乱すること10秒弱。Tは気付いてしまったの
最上静香
まさか…
北沢志保
そう。
北沢志保
──『間違えてネタ帳を提出してしまった』とね。
最上静香
やってしまったわね…
北沢志保
しかも担当していたのは体育会系の比較的厳しい先生。Tは焦ったわ
北沢志保
宿題未提出扱い。ワンアウト。
北沢志保
血気盛んな先生なのでお説教&翌日の公開処刑を覚悟せねば。ツーアウト。
北沢志保
日頃の妄想を爆発させたネタ帳を見られるなんて地獄。スリーアウトチェンジ。
最上静香
ぐうの音も出ない三者凡退ね
北沢志保
…端からみたら『なんだ、たかが提出ノート間違えただけじゃん』でしょうね
北沢志保
実際、翌日職員室に謝りに行ったら軽く弄られて、笑って返してくれたそうよ
最上静香
へえ、怒られなくて良かったじゃない
北沢志保
ただその日以降
最上静香
…その日以降?
北沢志保
─その先生はTを指名する時、『てるてる君』と呼ぶようになったわ
最上静香
うわ…ハンドルネームで呼ばれるのはきついわね…
北沢志保
…という話を数日前に聞いたの
最上静香
…ちなみにそのネタ帳はどうなったの?
北沢志保
──ひとつひとつのドラマ台本の端に、感想が書いてあったそうよ
最上静香
むしろそっちが真の地獄ね
(台詞数: 50)