伊吹翼
「ねえ、世界の果てには何があるのかな?」
最上静香
「また……唐突に変な事を言い出すのね」
伊吹翼
「えー、だってぇ……暇なんだもん」
最上静香
「大体そんな事知ってどうするのよ」
伊吹翼
「別に……なんとなく? 強いて言うなら価値が欲しいのかも」
最上静香
「価値?」
伊吹翼
「『世界の果てに行った』っていうステータスが身に付いちゃう的な?」
最上静香
「普通に生活できていることに価値を見出しなさいよ」
伊吹翼
「むぅ~」
最上静香
「エベレストを登頂すればいいじゃないかしら。ある意味世界の果てだし、頭も冷えるわよ?」
伊吹翼
「エベレスト? 何それ?」
最上静香
「……そう、だったわね」
伊吹翼
「……?」
最上静香
「……まあ、いいわ。付き合ってあげる」
伊吹翼
「ほんとっ? 静香ちゃん大好き!」
最上静香
「わざわざ抱きつかなくていいから」
伊吹翼
「そうと決まれば早速支度しなくちゃ!」
伊吹翼
「ねえねえ、何持っていけばいいのかな?」
最上静香
「必要ないわ」
伊吹翼
「そうなの?」
最上静香
「ええ、とても簡単だから」
最上静香
────
最上静香
私たちの世界はひどく狭い。
最上静香
徒歩で僅か数十分。それだけあれば世界を渡り歩いてしまえるほどに。
最上静香
それが全てで──それしかない。
伊吹翼
「ここ──」
最上静香
夕焼け空、ビル、コンテナ、海、そして一隻の船。
最上静香
何の変哲もない「波止場」で──。
最上静香
「『世界の果て』よ」
伊吹翼
「嘘……」
最上静香
「さ、分かったでしょ。お腹も空いたし、もう帰りましょ」
伊吹翼
「嘘だよ。まだ全然果てじゃない」
最上静香
「どうして、そう思うの?」
伊吹翼
「だって、向こうにまだ景色が広がってる。あの向こうまで行かなきゃ意味ないよ」
最上静香
「無理よ。諦めなさい」
伊吹翼
「……? この海、波が……」
最上静香
「翼!」
伊吹翼
「……っ」
伊吹翼
「嘘……」
最上静香
呆然と海の上に立つ翼。
最上静香
やがて、何かを求めるように地平線へと震える手を伸ばして──そして、触れる。
最上静香
それは帆布の質感。大きなキャンバス。
最上静香
世界の果てには世界を描いた絵があって──それしかない。
最上静香
「……あなたは、皆みたいに絶望してはダメよ」
最上静香
「抜け出すのは簡単かもしれない。けれど、それは不確定で、永遠に孤独になるかもしれない」
最上静香
「ずっと独りは……怖いでしょ?」
伊吹翼
「……そうかな……?」
伊吹翼
「ずっと“独り”になるより、ずっと“1人”になれない方が……よっぽど怖いよ」
最上静香
「翼……!」
伊吹翼
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(台詞数: 50)