最上静香
私、最上静香はうどんが大好物だ。
最上静香
母の話によれば幼い私に初めてうどんを食べさせた時、見たこともないほど喜んだらしい。
最上静香
「最上がアイドル?うどん屋じゃなくて?」なんて、同級生から言われたりもしたっけ。
最上静香
そんな私でも、うどん以外に大切な物はちゃんとある。
最上静香
アイドルとしてのお仕事、そして仲間たち。学校の友だちに両親。そしてー
最上静香
「あ、プロデューサーだわ。こんな所で会えるだなんて。」
最上静香
偶然にも見掛けたその姿に、私の胸は高鳴った。けれど。
最上静香
「あれは…?」
最上静香
遅れて現れた、事務所でいつも見ている女性。プロデューサーはその人に笑いかけて。そして。
最上静香
2人で歩いて行った…手を、繋いで。
最上静香
「…」
最上静香
分かっては、いた。彼が私を選ぶ事は絶対に無いと。
最上静香
だから、いつか必ずこんな日が来るのだと、秘かに自分に言い聞かせていた。けれども。
最上静香
実際にその姿を目の当たりにした時、私は何も考えられず立っているのがやっとだった。
百瀬莉緒
「静香ちゃん?どうしたのよ、こんな所で。」
最上静香
いつの間にいたのだろう。莉緒さんの声で、私は我にかえった。
百瀬莉緒
「ひょっとしてプロデューサー君達のデート、目撃しちゃったりする?私もなんだけど。」
百瀬莉緒
「あちゃあ…もう場所を選びなさいよね、まったくもう。」
最上静香
誰にも言っていないはずのこの感情、どうやら莉緒さんにはとっくに見抜かれていたらしい。
百瀬莉緒
「よし!気晴らししよっか。飲みに…はダメね、美味しい物でも食べに行きましょ。」
最上静香
1人になりたかったが、それでは莉緒さんに心配をかけてしまうだろう。
最上静香
どこでもいい、好きな所に行こう。そう言われれば、私はやっぱり。
百瀬莉緒
「ま、静香ちゃんなら当然うどん屋さんよね…何でも好きな物どうぞ、奢るわよ?」
最上静香
ここのうどんは本当に美味しい。だから特別な時にだけ、自分へのご褒美に利用する事にしている。
百瀬莉緒
「初恋ってのはね、実らない物と相場が決まっているの。私も小学生の頃、担任の先生にね…」
百瀬莉緒
「失恋はしておくものよ?その時は辛くても、後でいい経験になったって思える日が来るわ。」
百瀬莉緒
「今はあの人以上の人なんて考えられないでしょうけどね、そのうちまた素敵な人が現れるから…」
最上静香
慰めてくれているのか、莉緒さんは頼んだざるうどんに手も付けずひたすら喋り続けている。
最上静香
私はそれを聞くともなく、ただひたすらうどんを啜った。
最上静香
莉緒さんの言うように、またいつか好きになるような人が現れるのか、それはわからない。
最上静香
もしかしすれば、そんな人には一生出会わないという可能性だってありうるのだろうし。
最上静香
あるいはプロデューサーがあの人と結ばれず、私に機会が巡ってくる。
最上静香
ひょっとしたら、そんな未来が来るのかもしれない。
最上静香
けれども私の頭の中を占めていたのは、そんな事ではなくて。
最上静香
今食べているうどんは、ちっとも美味しくない。ただ、それだけだった。
(台詞数: 35)