最上静香
私の腕をつかんだのは、近くに居た琴葉さんだった。
最上静香
自分も限界ぎりぎりなのに、私の体を胸にかき抱いて支えながら、語りかけてくる。
田中琴葉
「…ごめんね、静香ちゃん。」
田中琴葉
「もう1曲って、先攻の私の方から言わなくちゃいけないことだったのに。」
最上静香
私に謝りながら。しかし、その体はさらなる熱を発していた。
田中琴葉
「…でも、私にだって、まだまだ先があるわよ。」
田中琴葉
「恵美!美也!海美ちゃん!環ちゃん!私たちも、準備を…!」
最上静香
琴葉さん…。私のこの姿を見て、それでも歌うつもりなのね…。
最上静香
でも、琴葉さんの声に応えたのは、『灼熱少女』の仲間の声ではなかった。
高木社長
「…待ちたまえ。」
最上静香
深く重みのある、男の人の声。
田中琴葉
「…社長。」
最上静香
琴葉さんの顔が、悔しさに歪む。社長が来たからには、ここで何らかの裁定が下されるのだと。
最上静香
いずれにしても、もう歌う機会は無くなってしまった。
高木社長
「…君たちを責めはしないよ。今回の件は、この結果を予想していなかった私のミスだ。」
高木社長
「そして、私は君たちに納得してもらえる決着を用意させてもらったつもりだ。」
高木社長
「だから、この勝負、私に預けてもらえないかね?」
最上静香
社長の声には、こちらに言うことを聞かせる圧力ではなく、諭そうとする誠意があった。
田中琴葉
「はい…。」
最上静香
それを感じてか、琴葉さんもうなずいて、社長にマイクを手渡す。
高木社長
「…うむ。」
最上静香
社長は、息を吸い込んで。
高木社長
『ご来場の皆様方、中継をご覧になられている方々。私は765プロダクション社長の高木です。』
高木社長
『今回、得票数では引き分けという結果に終わった決勝戦の、裁定を下させていただきます。』
最上静香
私たちが、会場が、息を呑んで社長の答えを待つ。
高木社長
『田中琴葉君、最上静香君。彼女らのパフォーマンスは、甲乙つけがたい素晴らしいものでした。』
高木社長
『よって、第4回大会は、この二人のダブル優勝とさせていただきます!』
最上静香
会場がどよめく。でも、その驚きが冷める間もなく、さらなる驚きが社長の口から発せられた。
高木社長
『…そして、私はここに宣言します!』
高木社長
『第1回から第4回の優勝者、準優勝者が集う、究極のトーナメントの開催を!』
最上静香
究極のトーナメント…!?噂はされていたけど、実現したのね…!
高木社長
『第1回大会。優勝者、星井美希君。準優勝者、周防桃子君。』
高木社長
『第2回大会。優勝者、四条貴音君。準優勝者、我那覇響君。』
高木社長
『第3回大会。優勝者、北上麗花君。準優勝者、ジュリア君。』
高木社長
『そして、今回の優勝者二人が、出場して覇を競うことになります!』
最上静香
社長の声に応じて、舞台袖から名前を呼ばれた人たちが姿を現す。
最上静香
その誰もが、私と琴葉さんを、祝福の眼差しで見つめていた。
高木社長
『組み合わせや運に恵まれず、この場に立てなかった実力者も、少なからずおります。』
高木社長
『ですが、ここに立つアイドルたちの見事な戦いぶりは、皆様がご覧になった通り。』
高木社長
『彼女たちがその栄誉に相応しい精鋭であることは、納得していただけると思います!』
最上静香
社長の言葉に、観客席から拍手が巻き起こる。
最上静香
賛同の。興奮の。期待の。すさまじい熱が、ステージまで伝わってくる。
高木社長
『詳細は後日発表いたします。どうか、期待してお待ちください!!』
最上静香
社長は告知を終えると、ボルテージが最高潮となった会場から、こちらに目を向けた。
高木社長
「決着は次のステージだ。いいね?」
田中琴葉
「はい!」
最上静香
「わかりました!」
最上静香
私と琴葉さんの返事は、ほとんど同時だった。
最上静香
周囲を囲む他の出場者の拍手が、私の心を充足と達成感で満たしてくれる…。
最上静香
そして、舞台袖から駆け寄ってくる仲間を迎えながら、私はこの戦いの終りを実感していた。
(台詞数: 50)