最上静香
自分でも笑ってしまうくらいの、ひどい有様だった。
最上静香
声はひび割れ、手足は動かない。顔も、浮かぶのは必死さだけで、とても笑顔なんて作れない。
最上静香
それでも、これを歌いたいという抑えきれない気持ちひとつが、私を衝き動かしていた。
最上静香
私は、疲労に霞む頭で、自分に問いかける。
最上静香
この胸から湧いてくるものは、いったい私に何をさせたいんだろう、と。
最上静香
もうこれ以上、逆さに振ったって、力はひと欠片だって残されてはいない。
最上静香
私が出せるものは、すでに出し尽くしている。
最上静香
だからこそ、琴葉さんと得票数が同じになるという、奇跡的な結果が生まれた。
最上静香
その結果には、満足している。あんなにすごい人と、こうやって渡り合えたことは、私の誇り。
最上静香
それなのに、どうして…?
最上静香
琴葉さんに先んじて歌えば、この後あるかもわからない再投票で、有利な結果になると思った?
最上静香
…そんなこと、あるわけがない。こんな、素人が歌った方がましな状態で。
最上静香
私の中に、まだ出しきっていないものがあった?
最上静香
…それも違う。私は、後悔なんてできないくらいに、自分の中にある、あらゆるものを表現できた。
最上静香
自分の力だけじゃない。仲間からの想いや絆。私に繋がるものを、全部力にして。
最上静香
…その先?さらに、その先があるというの?
最上静香
私を越えた、その先には…。
最上静香
繋がりの先…そこにあるのは…。
最上静香
…ああ、なるほど。
最上静香
最後のパートまで歌って、私はようやく、自分が何故この曲を選んだのかを、理解できた。
最上静香
私はただ、誇れる仲間の名前を呼びたかっただけなのだと。
最上静香
繋がりの先にあるその名前を、ここに居るすべての人たちに、聞いてほしかったのだと。
最上静香
だから私は、この胸に溢れるものを、一言一音の全てに込めて、最後のフレーズを歌い上げた。
最上静香
『Emotional Flooding…』
最上静香
『Crescendo blue…』
最上静香
…。
最上静香
歌の終わりを告げるように、私を照らすライトが消えて、周囲は闇に包まれた。
最上静香
そして、会場の照明が灯されて、アイドルとしての恰好さえつけられなくなった私を照らし出す。
最上静香
今度こそ、本当に…。
最上静香
もう立っていることもできずに、私はふらりと体を揺らす。
最上静香
私が倒れる前に、誰かが私の腕を掴んで、支えてくれるのがわかった。
最上静香
二の腕をつかんだその手が、驚くほど熱く、力強かった。
(台詞数: 32)