最上静香
…やり遂げた。
最上静香
もう精も魂も尽き果てて、ただ倒れないように体を支えているのが精一杯。
最上静香
私も、琴葉さんと同じように、自分のすべてをこの歌に込めることができた。
最上静香
それに対する答えは、観客席からの嵐のような歓声、拍手の音圧で。
最上静香
正面からそれを受けると、体の芯までびりびりと震えるほどだった。
田中琴葉
…流石ね、静香ちゃん。
田中琴葉
あなたなら、私と同じところまで自分を高めてくると、わかっていたわ。
田中琴葉
体を引きずりながら、舞台袖からステージの中央へ進む。
田中琴葉
海美ちゃんと美也が体を支えようとしたけど、私はそれを断った。
田中琴葉
今、一人で立ち続けている静香ちゃんに対して、それでは失礼だと思ったから。
田中琴葉
のろのろと、観客席からはゆっくり歩いているように見せて、静香ちゃんの許へ辿り着く。
最上静香
私と琴葉さんは、数歩ほどの距離をおいて、お互いに見つめ合った。
最上静香
言葉はいらない。相手のことが、まるで自分のことのようにわかっている。
最上静香
その目には、相手への賞賛と、自分は負けていないという確信があった。
田中琴葉
そして、二人が揃って、審判の時が始まった。
最上静香
夢から覚めて、現実を認識したように動き出す観客席の一部。
最上静香
投票権は、大ホールに舞台を移して、放映までされるようになっても、200のまま。
田中琴葉
ごく一部の、選ばれたファンの手に、私たちの運命は握られている。
田中琴葉
モニターに光が灯ったのを肌で感じて、私は後ろを振り返った。
最上静香
振り返ったのは、琴葉さんと同時だった。
田中琴葉
その目に映ったのは…。
田中琴葉
「田中琴葉、32票…」
最上静香
「…最上静香、32票。」
田中琴葉
同点。そんな、そんなことが…!
田中琴葉
計算上では、起こりうることなのはわかる。でも…!
最上静香
これだけ多くの人がいて、それぞれ好みも感じ方もあるのに、この結果は。
最上静香
それは、まさに天文学的な、としか言えない状況だった。
最上静香
観客席も、予想もしなかった結果に、ざわざわと揺れている。
最上静香
琴葉さんも、この結果に呆然と立ちつくしたままだった。
最上静香
しかし、その空気とは隔絶されたように。
最上静香
私はただひたすらに、自分に問いかけを続けていた。
最上静香
「…どうして?」
最上静香
その小さな声は、喧騒の中に吸い込まれて消えてしまったけど。
最上静香
疑問は消えることなく、私の中でどんどんと膨らんでいって。
最上静香
「…どうして?」
最上静香
いつしか、私の思考はただその一言で、いっぱいになっていた。
(台詞数: 36)