最上静香
そのパフォーマンスは、圧巻の一言。
最上静香
歓声と拍手が、この大ホールの壁でさえも吸収できずに、こだまとなって跳ね返り、渦巻いている。
最上静香
薄暗い舞台袖に立っていても、ふつふつとした熱気が肌を刺すようだった。
最上静香
一人の人間が、ここまでの熱量を生み出すことができるなんて…。
最上静香
歌を終えて、反対側の舞台袖に戻った琴葉さんが、ガクッとその場にうずくまるのが見えた。
最上静香
そこへ、海美さんと美也さんが、慌てて駆け寄っていく。
最上静香
長いライブともなれば、10曲以上を歌うこともある私たちなのに、たった1曲で…。
最上静香
それは、琴葉さんがこの歌に自分のすべてを凝縮させたということの証明だった。
最上静香
湧き上がってくるのは、ただ琴葉さんへの敬意ばかり。
最上静香
…だけど、ね。今度は私の番ですよ。
最上静香
琴葉さんが自分の心も体も、魂さえも絞りつくしたというなら、私も同じことをするだけ。
最上静香
私たちの勝負とは、そういうものですよね。琴葉さん。
最上静香
うずくまったままこちらを見る琴葉さんに、私は目線で語りかけた。
最上静香
…さて。そろそろ時間ね。
最上静香
私は、周りを見回した。
最上静香
付き添い人として、ここに居るのは志保と星梨花。
最上静香
麗花さんと野々原さんはライブに出演していて、琴葉さんが居る方の舞台袖にはけていった。
最上静香
二人が向こう側から私に向かって手を振っているのが見える。
最上静香
舞台裏に入る前には、未来と翼、紗代子さんも会いに来てくれた。
最上静香
多くの人に見守られて。だからこそ、私はここまで来ることができたのだと、改めて思う。
最上静香
「…行くわ。」
最上静香
仲間たちに、私は時が来たと告げた。
最上静香
ここからは一人。仲間の想いは一緒でも、あの場所に立てるのは、ただ私だけだった。
箱崎星梨花
「あの、静香さん…!」
最上静香
星梨花が、何かを言おうとして言葉を探して。
箱崎星梨花
「…頑張ってください!!」
最上静香
それは、飾り気は無いけれど、何にも代えがたい励ましの言葉だった。
最上静香
「…ええ。頑張るわ。」
最上静香
星梨花の頬に、手を当てる。
最上静香
かすかに熱く、脈も早い。これまでと、そしてこれからの予感に興奮しているのか。
最上静香
身も心も焼き尽くすような勝負の場は、この子には似合わないかもしれない。
最上静香
それでも、あなたはあなたの心で、私を見ていてくれたら、それでいい…。
最上静香
そして、最後に。星梨花と志保、この二人に言いたいことは、すでに決まっていた。
最上静香
「待っているから。」
最上静香
いつか、あなたたちとも、心震えるようなステージを。
最上静香
その時まで、私はこの場に立ち続けてみせる。
最上静香
そんな祈りと決意を込めた、言葉だった。
最上静香
その心が伝わったのか。星梨花は力強くうなずいてくれて。
最上静香
…でも、志保は。安心するくらいに相変わらずだった。
北沢志保
「待つ必要なんてないわ。全力で突っ走りなさい。」
北沢志保
「私たちが、その背中に追いついてみせるから。」
最上静香
たしかに、私たちにはそっちの方が似合うかもしれないわね。
最上静香
笑って、うなずく。始まる前に志保のその言葉を聞くことができて、何よりうれしかった。
最上静香
「…じゃあ、ね。」
最上静香
背中からは二人、正面からも二人。仲間の視線を受けながら、ステージへ一歩を踏み出す。
最上静香
私に一斉に視線が集まって。琴葉さんが残した余韻が、あっという間に消え去っていった。
最上静香
誰もが注目している。私が何を歌い、どんな想いを伝えようとしているのかを。
最上静香
マイクを口元に。息を吸い込んだ。
最上静香
「どこまでも届いてほしいという想いを込めて。精一杯歌います。」
最上静香
「私たちの歌…。『Shooting Stars』。」
(台詞数: 50)