ReRise第31話『慟哭』
BGM
ホントウノワタシ
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-04-30 21:50:01

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最上静香
決勝進出はひとつの区切りではあったけれど、まだゴールへ到着したわけではない。
最上静香
一晩、ゆっくりと休んで喜びを噛みしめたあと、私は決勝への準備を始めていた。
最上静香
そして、今日は準決勝のもう一つの試合がある。
最上静香
琴葉さんかエレナさんのどちらかが、私の決勝戦の相手として決まるわけだけど…。
最上静香
実力でみれば琴葉さん。だけど、エレナさんだってそこまで容易い相手とは思わない。
最上静香
…勝敗抜きにしても、この勝負は見逃せないわね。
最上静香
始まる前から手に汗を握るような思いをしていると、先攻のエレナさんが姿を現した。
最上静香
エレナさんも、一回戦でソロ曲を歌っている。ここで、何を持ってくるか…。
最上静香
今回もMCは無し。そして、流れ出したイントロは…。
最上静香
…私は、一瞬自分の感覚がおかしいのではないかと疑った。
最上静香
これは『ホントウノワタシ』…!
最上静香
琴葉さんのソロ曲を、エレナさんが歌っている。
島原エレナ
『「大丈夫 君は強い人だから」と いつもの笑顔の隣で 「そうね」って笑った』
最上静香
…柔らかい。まるで、穏やかな風のように。
最上静香
一回戦で琴葉さんが歌った『ホントウノワタシ』は、感情の激流が聞く人を翻弄した。
最上静香
でも、これは優しさの中に芯の強さがあって…。
最上静香
エレナさんは…そういうことなのね。
最上静香
本来の琴葉さんの歌い方で、この曲を歌っている。
最上静香
自分を取り戻してほしいと。本当の田中琴葉に戻ってほしいと。
最上静香
でも、これでは…。
最上静香
形としては完成している。だけど、まだ深みが足りない…。
最上静香
エレナさんがこの曲を歌うと決めたのは、第一回戦の琴葉さんを見てからでしょうね。
最上静香
それから今日までの短い期間で、琴葉さんのソロ曲を練習できる時間が、どれだけあったか。
最上静香
元々私が自主的に練習していた『piece of cake』とは、条件が違いすぎる。
最上静香
何より、私はオリジナルメンバーである麗花さんから表現や解釈を学ぶことができた。
最上静香
しかも、自分なりの表現ならともかく、琴葉さんの表現で歌うなんて。
最上静香
いくらエレナさんが琴葉さんの親友で、近くで見てきたからって、これは無理よ…。
島原エレナ
『本当は泣きたくて 誰よりも臆病で 心はこんなにも脆くて』
最上静香
…だからと言って、エレナさんを責められるわけがない。
最上静香
エレナさんは、良くも悪くも、裏表のない人だもの…。
最上静香
人を驚かせるような策とは無縁なエレナさんには、これが精一杯だったに違いない。
最上静香
…そう。エレナさんだって野々原さんとの激戦で、余力なんてあるわけがなかったのよ。
最上静香
準決勝に上ってきただけでも、本当に必死の想いだったろうに…。
最上静香
非情なようだけど、断言できる。これでは、琴葉さんの心までは届かない。
最上静香
志保よりもはるかに堅固な殻で心を覆ってしまった琴葉さんでは、その殻を上滑りしていくだけ。
最上静香
…それを、エレナさんも自分で感じているようで。
最上静香
その表情は、どんどん重くなっていって…。
島原エレナ
『小さく「ただいま」 明かりもつけずに 鏡の中 知らない私が…』
最上静香
やがて、その歌には嗚咽が混じり始めて。
島原エレナ
『だ…めね…ヒック…じぶんが…ヒッ…うううううっ…』
島原エレナ
『うあああぁ…コトハ…コトハぁ…』
最上静香
とうとう歌い続けることもできずに、ただ琴葉さんの名前を呼びながら、泣き続けている…。
最上静香
…観客席がざわめきだしていた。
最上静香
事情のわからない人たちでは、エレナさんの涙の意味は理解できないのだから、無理もない。
最上静香
多少なりとも事情を知っている私は、その光景を見てはいられずに、きゅっと目を閉じた。
最上静香
耳に、悲痛な泣き声がいつまでも、いつまでも、響いてくる。
最上静香
こんなときに、こんなことを言うのは、おかしいかもしれないけど…。
最上静香
その泣き声は、何百の言葉、何十の歌を超えて。
最上静香
…私の心を、強く打った。

(台詞数: 49)