最上静香
舞台袖に戻った私を、星梨花と麗花さんが笑顔で出迎えてくれた。
最上静香
でも、まだ瑞希さんの出番が残っている。
最上静香
二人にうなずいて、私はステージの方へ振り返り…。
真壁瑞希
「……。」
最上静香
そこで、私とステージに出てくる瑞希さんの視線がぶつかった。
最上静香
この人は…こんなに強い目をする人だった…?
最上静香
その意味を測りかねている間に、瑞希さんは正面を向いてしまう。
最上静香
前と同じようにぺこりと観客に頭を下げて。でも…MCを入れるの?
真壁瑞希
「みなさん。最上さんの歌、とても素晴らしかったと思いませんか?」
最上静香
瑞希さんの問いかけに、ファンは拍手で応える。
真壁瑞希
「私は、絶対に負けたくないと思いました。ですから…オールインでいきます。」
最上静香
オールイン?そう思ったのもつかの間、その口から出た曲名は、私の予想を裏切って…。
真壁瑞希
「行きます。『Cut.Cut.Cut.』。」
最上静香
…うそ!?準決勝でも、ソロ曲を温存するっていうの…!?
最上静香
でも、そうやって、私を甘く見てくれているなら、こちらにも勝ち目が…。
最上静香
…いいえ。瑞希さんのさっきの目。そんなに甘くはないわよね。
最上静香
あれは…私に勝ってみせるという、決意の目よ…!
最上静香
その激しさとは裏腹の、軽快なイントロが流れて。
真壁瑞希
『ChuーchuーruーChu Paーyaーpa…』
真壁瑞希
『たった5cmで変わる、頬杖や呼びかける声 なんて単純なセンチメント』
最上静香
…ステージ上に、花が咲いた。
最上静香
瑞希さんの普段の無表情が花のつぼみとするならば、笑顔は咲きこぼれる花。
最上静香
ぱっと花が咲いたような小さな驚きと、可憐なのに儚さを感じさせない、力強さがある。
真壁瑞希
『Cut. Cut. Cut. 知ってる言葉なんて 何回も…聞き飽きたのに』
最上静香
振り付けも可愛らしくて、表情にマッチしていて…なにより完成度が高い。
最上静香
付け焼き刃である私とは対照的に、じっくりと仕上げてきた感が…。
最上静香
そう思ったとき、私はハッとした。
最上静香
これは…最初からこの曲を歌うと決めて、練習してきてる?
最上静香
奈緒さんは、歌をどちらにするかを最後まで決めかねて、結局それが敗因となった。
最上静香
そうなるように仕向けた瑞希さんが、同じ失敗をするわけがないじゃない…!
最上静香
だったら、ソロ曲は…最初から決勝戦のために…?
最上静香
…私はたった今、瑞希さんの本当の恐ろしさを知った。
真壁瑞希
『続いてく トークショー だってもっと 続くと思ってた』
最上静香
何よりも恐れなくてはいけなかったのは、瑞希さんの策じゃなくて、そのメンタル!
最上静香
虎視眈々と、果敢に、そして機を逃さずに。そして、策略は使っても、それに頼りきることはなく。
最上静香
ここにきて、正々堂々の実力でも、すごいものを見せてきた…!
最上静香
瑞希さんのパフォーマンスは、一回戦に引き続いてパーフェクト。見ていて小揺るぎもしない。
最上静香
私は、どうだったか。粗が目立ったし、志保が来てからの後は、夢中であまり覚えていなかった。
最上静香
自分としては、手応えはあったと信じたい。でも、瑞希さんはそれ以上かもしれない。
最上静香
私に対しては策略のようなものは無かったけど、それは地力で上回っていると判断したのかも…。
真壁瑞希
『Cut. Cut. Cut. 知ってる言葉なんて 何回も…聞き飽きたから』
真壁瑞希
『Cut. Cut. Cut. 大事にしてた感情もシェープ』
真壁瑞希
『今度は絡まらないで New Hairstyle!』
最上静香
…歌が終わった。
最上静香
観客席か惜しみない拍手が送られて、ステージを包む。
最上静香
そして、これから私たちの運命を決める、投票の時間が始まる。
最上静香
正直に言って、怖い。自分がしたことが、どう転ぶかわからないから。
最上静香
でも、後悔はしないと決めたばかりだと。私は自分を奮い起こして、ステージへと進み出る。
最上静香
瑞希さんが私を見ている。志保も、一番後ろの席から。背中からは、星梨花と麗花さんも。
最上静香
多くの視線を受けながら、私はその時を。運命の時を、待った。
(台詞数: 50)