ReRise第27話『簡単なこと』
BGM
piece of cake
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-04-24 01:54:06

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最上静香
流れ出すイントロ、その旋律に身を委ねながら、私はまだ姿の見えない志保に呼びかける。
最上静香
…ねえ、志保。
最上静香
私ね…正直に言えば、あなたのこと、気に食わないわ。
最上静香
自分だってダンスとかそこまで上手でもないのに、やたら偉そうなところも。
最上静香
普段つっけんどんなくせして、こんなに可愛くておしゃれな曲をもらったのも。
最上静香
同じ年なのに、高校生にも負けないようなスタイルをしてることも。
最上静香
…認めるわ。半分嫉妬よ。
最上静香
でも、それ以上に惹かれるところもあって。
最上静香
私たちの目の前では、決して弱音を吐かないところ。
最上静香
信念を貫き通す、意志の強さ。
最上静香
『アイドル』に、どこまでもひたむきなところも…。
最上静香
そして、きっと志保も私のこと、同じように思っているわよね?
最上静香
気に食わないけど、無視できないくらいに存在が大きくて…。
最上静香
だから私たちは、ときにいがみ合いながらも、惹かれ合っている。
最上静香
ライバル、として。
最上静香
…ねえ、いつまで不貞腐れてるの。あなたはそれで私のライバルのつもり?
最上静香
私に挑発されたら、悔しがって2倍も3倍も言い返しに来なさいよ。
最上静香
このままなんて、物足りないわよ。張り合いが無いわよ。
最上静香
ううん…それだけじゃなくて…。
最上静香
寂しいし、あなたがいるから、私も負けないくらいに頑張ろうって、思えるのよ!
最上静香
わかるでしょ?早く来なさいよ…。
最上静香
志保のために歌うこの曲は、志保がいなければ完成しない。
最上静香
そして、それは多分、ファンの心をつかみきれないということでもある。
最上静香
…志保。まだなの?まだためらっているの…?
最上静香
やがて私が心に諦めを覚え始めた、その時。
最上静香
ホールの入り口のドアが、勢いよく開いて。
最上静香
中に入ってきたのは…志保!
最上静香
肩で息をしているのは、きっと迷いに迷って結論を出して、それから文字通り駆けつけたから。
最上静香
来たわね、志保。来てくれたわね…。
最上静香
そうよ、志保。これは『piece of cake』…簡単なことなのよ。
最上静香
ただ、私たち二人が揃えばいい…。
最上静香
志保は、客席の後ろを通って、正面奥のスペースへ。そこで私たちの目が合う。
最上静香
そこで、志保がとった行動は…。
最上静香
ふふっ…。なるほどね。
最上静香
志保は、私の振り付けと、ちょうど鏡写しになるように踊っている。
最上静香
もしその姿をステージの上に投影してみれば、私と対となる動きになるはず。
最上静香
つまり、私と志保がデュエットをしてるようなかたちに。
最上静香
そして、流石はオリジナルメンバー。洗練されたダンスも、可愛い仕草も、私とはまた一味違う。
最上静香
…でも、負けるものですか。これは私のステージよ!
最上静香
まるで競い合うように。重なり合うように。
最上静香
志保がギアを上げれば私が追い付いて、私がさらに上を行こうとすれば志保が先回りする。
最上静香
いつしか、その繰り返しが、私のパフォーマンスを何度も格上げしていた。
最上静香
一人で歌っているのに、デュオの厚みを持つ、そんな不思議な感じに。
最上静香
私と志保が作り出したうねりが、ステージを、観客席を、会場全体を飲み込み、満たしていく。
最上静香
ファンも、完成したこの歌に、深く深く、心の底までのめり込んでいた。
最上静香
良いステージね…。そして、私の思っていたことも、実現できた。
最上静香
これで、後はどうなっても、後悔は無い。絶対に。
最上静香
…そして歌が終って。温かい観客の拍手が、まるで雨のように私に降り注ぐ。
最上静香
その中で、私はマイクを小脇に挟みながら、ただ一人だけ。
最上静香
用は終わったとばかりにぷいと後ろを向いた志保の背中に、精一杯の拍手を送っていた。

(台詞数: 50)