最上静香
本選に進んだということは、劇場の観客の前で歌うということで、ここからはお仕事になる。
最上静香
そのおかげで、レッスン場を堂々と使えるようになって、私の練習環境は大幅に改善した。
最上静香
今、練習しているのは、私のソロ曲『Precious Grain』。
最上静香
私が一番最初にもらったソロ曲で、一番多く歌ってきた歌だった。
最上静香
やはり、私の全力をぶつけるには、この歌しかない。
最上静香
そう思い定めて、ただひたすらに自分を高め続けている日々が続いていた。
最上静香
今回の相手は、紗代子さん。
最上静香
この試合は、小細工一切なしの真っ向勝負になることは、疑いようもない。
最上静香
…まったく。いきなりとんでもない人と当たったわね。
最上静香
紗代子さんには、猪突猛進、不撓不屈、そんな言葉がよく似合う。
最上静香
でも、いわゆる熱血系によくある勢いだけの人じゃなくて、高い実力の持ち主でもあるのよね。
最上静香
紗代子さんの最大の武器は歌唱力。
最上静香
以前、アイドル雑誌の新人特集で、私のことを『二代目歌姫』と書いた記事があったけれど…。
最上静香
私程度を歌姫と言って良いのならば、765プロには歌姫が何人もいることになってしまう。
最上静香
そして、紗代子さんは間違いなくその一人に数えられる人だった。
最上静香
透明で伸びのある歌声は、何度聞いても惚れ惚れするほどで、正直に言ってうらやましい。
最上静香
仲間としてステージで歌っているのを聞いているときには、頼もしいと思っていた。
最上静香
それが、敵に回るとこんなにも恐ろしく見えるなんて…。
最上静香
…でも、私も負けるつもりなんて全然ないわ。
最上静香
もっと言えば、歌唱力の勝負では絶対に負けたくない!
最上静香
私にだって、自信もあれば自負もある。そして、そのための準備もしっかりと整えてきた。
最上静香
具体的に言えば、『Precious Grain』の振り付けを新型に変えていく。
最上静香
『Precious Grain』には、欠点ではないけれど、気になっているところがあった。
最上静香
それは、曲中の運動量が多くて、体力の消耗が激しいということ。
最上静香
振り付けに円を描いて動くステップやターンが多くて、そちらにも神経を割かなくてはいけない。
最上静香
もちろん持ち歌だから、それも含めてしっかりと自分のものにしてきたけど…。
最上静香
相手が紗代子さんのような強敵となれば、それでは力負けしてしまうかもしれない。
最上静香
新型の振り付けは、言ってみれば他に回していたエネルギーを歌唱力へ集中するための工夫。
最上静香
そして、私の全力を最大限に活かすための、新しい武器だった。
最上静香
私は、練習に練習を重ね、この武器をひたすらに研ぎ澄ませていく。
最上静香
いつしか、心の中には不安もなく、自信もなく。
最上静香
ただ一心に集中しているうちに、残された時間は、まるで砂粒のように零れ落ちていって。
最上静香
気が付けば、第一回戦の第一試合、私の試合の前日を迎えていた。
(台詞数: 33)