ReRise第3話『恥ではなく、勇気』
BGM
GO MY WAY!!
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-03-26 12:46:09

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最上静香
課題曲を選んでから、私は劇場の空き部屋で、予選へ向けての練習を続けていた。
最上静香
レッスン場でもないところに姿見とCDプレーヤーを持ち込んで、即席の練習場に。
最上静香
わざわざこんなことをしているのには、いくつか理由がある。
最上静香
ひとつは、長時間レッスンができる場所を確保できなかったから。
最上静香
こんなに大きい劇場でも、レッスンに適した場所が無限にあるわけではない。
最上静香
レッスン場はほぼすべてが出場者に使われているし、出場者以外にも日々のレッスンがある。
最上静香
実際、出場者同士が交代や相部屋でレッスンをしている光景さえ、当たり前のようになっていた。
最上静香
でも、私の場合、それでは都合が悪いのよね…。
最上静香
何故なら、もうひとつの理由として、人目につかないところで練習したいという思いがあるから。
最上静香
私の考えが確かなら、これは絶対に外せないこと。
最上静香
だからこそ、誰に教わるでもなく、一人こんなところで練習に打ち込んでいた。
最上静香
『GO MY WAY!!』の振り付けを繰り返しながら、私は何度も姿見をチェックする。
最上静香
「もう少し、かな…。」
最上静香
そうつぶやいた私に答えるように、部屋の入口のドアが音を立てて開いた。
北沢志保
「静香…。ここに居たのね。」
最上静香
「…志保?」
最上静香
そこには、私と同じように今回の敗者復活枠に選ばれた、志保の姿があった。
最上静香
志保はつかつかと歩いてくると、私の目の前に立つ。
最上静香
「…何?用事?」
最上静香
…相手が志保となると、どこか身構えてしまうところはあるけど、それでも今回は特に。
最上静香
志保の顔は不機嫌そうで、どう見ても他愛のない話をしに来たとは思えない様子だったから。
北沢志保
「こんなところで、しかもこれは『GO MY WAY!!』?静香、あなた何をしてるの?」
最上静香
言い方はひどかったけど、志保の言おうとしてることはわかる。
最上静香
私もそうだけど、志保もこの敗者復活に選ばれるまで、それなりに苦労をしてきたのだと思う。
最上静香
そういうシンパシーもあるし、正面きっては言えないけど、ライバル心もある。
最上静香
そんな相手が、まるで勝負を投げるような素振りを見せていたのなら…腹を立てるのは当然ね。
最上静香
らしくない曲を歌って、こんなこそこそと隠れるように練習してて…。
最上静香
私が逆の立場なら、やはり同じように志保に一言、言いに行ったかもしれない。
最上静香
でも、これに限っては、私にも言い分というものがある。
最上静香
「…これも、私なりの考えがあってのことよ。」
最上静香
「今までの私では、この先は通用しないって、確信しているの。」
最上静香
「だから、私は変わらなくてはならない。いいえ…変わりたい。」
最上静香
この意味が、志保にどこまで通じるかはわからない。
最上静香
ただ、自分の真剣さが伝わればいいって思った。
最上静香
「志保から見れば、私は自分を曲げているように見えるかもしれないわね。」
北沢志保
「…。」
最上静香
「でも、違うわ。変わるのは恥ではなくて、勇気よ。」
最上静香
重ねたその言葉に、志保はどう思ったのか。
最上静香
ため息をひとつ吐いて、目を逸らしたのは志保の方だった。
北沢志保
「…いいわ。あなたはあなたのやり方でやればいい。」
最上静香
そのまま、部屋を出ていこうとする。
最上静香
私は、志保を呼び止めようとして…思いとどまった。
最上静香
この歌に決めるまでの思いを、もっと志保に話した方が良かったのではないか。
最上静香
私が考えに考え抜いて得た「気づき」は、同時に今の志保の危うさも予感していたから。
最上静香
…でも、きっと私の言葉は、志保には届かない。
最上静香
その立場になって初めて身に染みてくる言葉があると、私は身をもって学んでいた。
最上静香
未練を振り切ると、私は姿見で自分をチェックする練習に戻る。
最上静香
…予選までの時間は、ほんのわずかしか残されていなかった。

(台詞数: 48)