夢の終わりと始まりと
BGM
Catch my dream
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-01-20 00:16:12

脚本家コメント
ピアノはもう止まらない。
敬愛するO先生の受賞記念に
【4/11追記】
史上初のダブル受賞おめでとうございます。

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最上静香
……ため息すら出なかった。
最上静香
周りの大人はみんな立ちあがって拍手をしている。斜め前のおばあさんなんて涙を流している。
最上静香
それでも私は口を固く閉じ、ぎゅっとこぶしを握り締めることしかできなかった。
最上静香
……花が散るように人がどんどんとはけていく。
最上静香
『やっぱり、あの娘は違うね。トリじゃないとほかの子がかわいそうだわ』
最上静香
あの娘……名前も出ていないのに誰のことか分かる。
最上静香
そして、それが決して自分ではないことも。
最上静香
会場の外で母が待っていた。
最上静香
「良かったわよ」の言葉も、今はピアニッシモより軽く弱く感じる。
最上静香
いつもの助手席ではなく後部座席に腰を下ろした。窓から見える景色は無情にも鮮やかだ。
最上静香
『……すごかったわね』
最上静香
母の言葉に無言で頷く。
最上静香
『どうするの、まだピアノは続けるの?』
最上静香
私は無言を続けた。
最上静香
『やりたいだけやっておきなさい。いつまでも続けられないんだから』
最上静香
瞼がピクリと動いた。
最上静香
『最後の娘ぐらい上手ければ話は別でしょうね。天才っているのね』
最上静香
車が赤信号で停止する。天才……そうか、あれが天才なのか。
最上静香
『サインでももらっておけばよかったかしら?静香、名前覚えてる?珍しい苗字だったけど』
最上静香
……あの娘には世界はどう見えるのだろう。
最上静香
きっと、見える世界は鮮やかで賑やかで輝いていて……
最上静香
そして、どんなに足搔いてもどけることのできない心の蓋に悩むことはないのだろう。
最上静香
『……ラジオで紹介してたりしないかしら?……ねぇ、静香、聞いてるの?』
最上静香
ラジオを付ける母の声で我に返る。私は、うん、と小さく返事をした。
最上静香
車が静かに動き出した。
最上静香
『~それでは、今週の第1位!強いですね~、4週連続!765プロオールスターズで……』
最上静香
……ああ、ここにも天才がいる。私には手の届かないだろう天才たちが。
最上静香
『……大変でしょうね、この世界で生きるのは』
最上静香
母らしくない言葉が聞こえたので、疑問を投げかけた。
最上静香
『ほら、今の歌詞よ。"夢を初めて願って今日までどの位経っただろう"って』
最上静香
『こんな言葉、この歳の女の子で普通は出てこないもの』
最上静香
……私は、自分が恥ずかしかった。
最上静香
何を考えていたんだろう。彼女たちに悩みがないだなんて。苦労がないだなんて……。
最上静香
『~明日は追いかけてくモノじゃなく今へと変えてくモノ~♪』
最上静香
『ああ、でも、作詞家は別によね、きっと』
最上静香
そんなこと……どうだって良かった。今、私が気にすべきことはただ一つだ。
最上静香
「お母さん、話があるの」
最上静香
ずっと抱えていた夢を、叶わないと思っていた夢を、明日という夢へと変えるのは今しかない。
最上静香
「――、―――。」
最上静香
母は、車を止めなかった。
最上静香
私はゆっくり息をつき、座席に背中を預けた。
最上静香
ラジオから聞こえてくる音が、クラシックに変わる。この曲はさっきの……
最上静香
そっと目を閉じ、記憶の中の優しいフォルティッシモに身を委ねる。
最上静香
……ああ、やっぱりさっきの娘は凄かったんだ。
最上静香
そっと手を叩いている自分に気付き、苦笑いする。
最上静香
窓の外に目を向ける。窓から見える景色は先ほどよりも少し鮮やかだ。
最上静香
いつしかまた出会えたら。今度は、彼女のピアノと私の歌で……。
最上静香
私は首を大きく振って、今の考えを振り払った。
最上静香
違う。私の歌と彼女のピアノだ。初めから負けるつもりでいてはいけない。
最上静香
私は決して天才ではないのだから。

(台詞数: 50)