最上静香
整理しよう。つまりおまえは美也ではないと。
宮尾美也
はい。違います。基準が難しいですけどね。
最上静香
……
宮尾美也
そんな顔をしないでください。私だって曖昧なんです。
宮尾美也
私を私足らしめる物はなんなんでしょうね。でもだからこそ、私はもう美也ではないんですよ。
最上静香
……それは前までは美也だったと言うことか。
宮尾美也
そう……ですね。そんな言い方も正しいのかもしれません。
最上静香
……やっぱり分からない。からかってるだけだったりはしないだろうな。
宮尾美也
からかうにしてももっとインテリジェンスなからかい方をしますよ。
最上静香
おまえも自分が何者か分かっていないと。
宮尾美也
そうなりますね。全く人を食ったような話です。
宮尾美也
ただ、ただ一つ確実に言える事は。
宮尾美也
私がもう死なないと言うこと。
最上静香
それはもう聞いた。つまりおまえは……
宮尾美也
猫です。
最上静香
……どうしたいきなり。
宮尾美也
私の正体ですよ。簡潔にスッパリ言うなら、そんな感じ。
最上静香
……その不死の獣の正体が猫で、だから不死を受け継いだおまえも猫だと。
宮尾美也
その通りにゃあ。
最上静香
いやここに来ていきなり猫感だされても。
宮尾美也
受け継いだのは不死だけじゃないんです。というか、受け継いだ訳じゃないんですよ。
最上静香
語尾も受け継いだと。
宮尾美也
いやそれは冗談ですって。そもそも、死なないのには死なない理由があるんですよ。
最上静香
それを知っているのか。
宮尾美也
知っているというか、覚えているんです。ぼんやりと。
最上静香
……前の獣の記憶も、共に受け継いだと言う事か。
宮尾美也
これはね、呪いなんですよ。死なない呪い。
宮尾美也
不都合も不利益も悲しみも無くなる代わりに、その逆も無くなる呪い。
宮尾美也
死なない代わりに生きられない呪い。猫は、そんな存在なんです。
宮尾美也
実は神様でも無いし、ずっと山に篭って静かにしていました。時々は噂を聞きつけて、
宮尾美也
心臓くださいって言う方もいましたが、ずっと無視してました。
宮尾美也
ところがある日、同じ様なある方が来て言いました。娘に命が欲しいと。
宮尾美也
あんまり言ってくるので、見に行ったんですよ。その娘を。
宮尾美也
そしたら、その娘を一目見た途端気に入っちゃいまして。とても可愛らしかったので。
宮尾美也
だから、命をあげることにしたんです。
最上静香
その前にちょっと待ってくれ。多くの人間に狙われたのだろう。何故無事だったんだ。
宮尾美也
そこはほら、神様ですからね。
最上静香
いやさっき別に神様じゃないって。
宮尾美也
そうでしたっけ?でも、捕まえようとして捕まえられるようならとっくに死んでますよ。
宮尾美也
その娘に命をあげようと思って、それで気づいたんです。呪いを解く方法。
宮尾美也
ずっと自分のために生きた一匹が、他人の幸せの為に自らを犠牲にする。
宮尾美也
それに気づいた時、一瞬ですが、とても幸せな気持ちになりました。これが答えなんだって。
宮尾美也
その日のうちにこの身を差し出しました。
最上静香
……その子も、家族も、きっと喜んだだろう。
宮尾美也
ええ、ですから。とても悪い事をしてしまったと反省しています。
宮尾美也
私が食べられて、私は闇の中に解けて行きました。その時は確かに幸せでした。
宮尾美也
……でもね、世の中そんなに甘くないんです。
宮尾美也
そのくらいでは許してくれなくて、というか命を巻き込んだ罪は重かったらしく。
宮尾美也
私が次に目覚めた時、その娘は……
宮尾美也
私の新しい体になっていました。
(台詞数: 50)