最上静香
人間から捨てられたこの街は、少しずつ綻びて行った。
最上静香
噂によると、逃げ遅れた人が少なくない数、居たらしい。
最上静香
きっとそんな人達も、街と同じ切り捨てられてしまったのだろう。
最上静香
さて、話は変わるが、その街には遊園地がある。
最上静香
あった?
最上静香
あった?いや、今でも残ってるからある、で良いとして。
最上静香
勿論、こんな非常事態になってすぐ閉園されて、いやされてないけど事実上閉まって。
最上静香
あ、でも事実上は閉まって無いというかなんというか、まあその話はおいおい。
最上静香
その中でも一番の目玉は、何と言っても遊園地界の副将観覧車である。
最上静香
この大きさが売り(建って二ヶ月で他県のに抜かれた)の観覧車はこの街の外からでもよく見える。
最上静香
その長い1回転の中では、全てが上手く行くと言う噂を遊園地側がセルフで広めていた。
最上静香
俗に、恋を成就させるスポットとして賑わったそうな。いや一緒に乗る所からハードルが高い。
最上静香
そして今頃、そこにはセルフで無い噂が出来ているだろう。誰もいないはずの街の遊園地。
最上静香
その観覧車が、いないはずの誰かを乗せて、夜な夜な回転を続けている……と。
最上静香
……
最上静香
……ネタばらしをすると、そのいないはずの誰かとは私達の事で、残された人々と言うのも私達だ。
最上静香
外の世界の噂は、時折ラジオを通してこちら側にやってくる。
最上静香
ここでは何もする事が無いので、二人で一日中、なんでもないように何かしている。
最上静香
以前の自分からは想像もできない堕落ぶり。ここに忍びこんだのも暇つぶしだった。
最上静香
中は以前と全く変わっておらず、閉まったと言うわけでも無さそうだ。
最上静香
つまり、人がいなくなったから機能してないだけで、本当は機能はしてるわけで。
最上静香
……色々回っている内に、色々していたらなんか動いたので、色々乗ってみる事にした。
最上静香
観覧車に乗りたいと言い出したのは私の方だ。ここのパンフレットを見て、セルフ噂を思い出した。
最上静香
そう、堕落しても尚私は策士なのだ。毎日張り合いが無さ過ぎてテコ入れが必要だったところ。
最上静香
この中でなら、流石のこの人も流石に何か動くだろう。何しろ密室なのだから!
最上静香
そんな策謀があり、今こうして都市伝説の作者となっていると言うこと。
最上静香
その知略虚しく、ただただ無言のまま上昇を続ける密室であった。
最上静香
有り体に言って、気不味い。
最上静香
この人間は昔からこうだ。一緒にいる時間が多すぎて、最早気を使うと言うことを忘れている。
最上静香
もしかすると、この長い1周期は、人生で最も長い退屈な時間になるかもしれない。
最上静香
少しでも有意義に使おうと、街を見渡した。前と変わらず、綺麗なままだ。人だけが消えている。
最上静香
見つめ続けて密室が真上に来る頃、遠くに動く物が見えた。この景色なら、変化は目立つのだ。
最上静香
それの正体は、学校に行っていた頃の級友と、その幼馴染だった。そうか、あの二人も……
最上静香
最早自分達の事はどうでも良かったが、知り合いが間に合わなかったと知るのは、麻痺した頭でも
最上静香
少し、辛い物があった。というか、あの二人、昔からだったが少々ベタベタしすぎでは無かろうか。
最上静香
人の目がなくなったから調子に乗っているのだろうか。まあ、確かにあの二人はお似合いだ。
最上静香
そんな事を思うとたちまち怒りが湧いてくる、嫉妬と自覚して尚だ。どうして目の前の人間は!
最上静香
そうして長い一周が終わり、すべてを諦め密室を開放しようとしたその時。
最上静香
「もう一周、しない?」と、発したのは私では無い方の口だった。あなた口があったのね。
最上静香
その顔は、何だか思い詰めていて、何か理由があって降りたくない様に見えた。
最上静香
ああ、そうか。
最上静香
この人もこの人で、ちゃんと考えていたのかもしれない。だから無口だったのね。
最上静香
それなら、私は待つことにしよう。初めての世界で、世界で初めての二周目。
最上静香
人の目など無いのだから、私達のもう一周を、存分に味わえばいい。
最上静香
……
最上静香
と、これで終われば私の人生においての甘酸っぱい青春の1ページなのだけど……
最上静香
これが物語だとするならば、最悪の結末を迎える事をここで言ってしまう。
最上静香
何とこの煮え切らない人間、この後「もう一周」をなんと6回も使い、
最上静香
最終的にはしびれを切らした私から話を切り出してしまうという。
最上静香
笑えないオチが待っている。
(台詞数: 50)