北沢志保
「ありがとうございます。またお越しください」
北沢志保
最後のお客を見送って、ゆっくりと扉が閉まる。
北沢志保
「……」
矢吹可奈
「お……」
矢吹可奈
「お疲れさまでした~!」
北沢志保
淡く輝くお店の灯りの下、可奈は声高に言った。
最上静香
「お疲れさま。結局助けに来てくれなかったわね!」
北沢志保
「わ、悪かったわよ」
北沢志保
「お詫びと言ってはなんだけど、珈琲と余ったケーキ……用意したから」
矢吹可奈
「志保ちゃん優し~!」
北沢志保
「と、当然の事をしてるだけよ」
北沢志保
いや、違うか。
北沢志保
「今日はその……ありがとう。助かったわ」
最上静香
「ま、私たちも楽しかったわ。ね、可奈?」
矢吹可奈
「可~奈はも~っと働きたいぞ~♪」
北沢志保
「……そ、良かった」
北沢志保
優しい言葉に安堵する。どうしても無理強いをした感が拭いきれなかったから。
矢吹可奈
「えへへ~、ではでは、スイーツ君たちを頂いていいです可奈~♪」
最上静香
「これが評判の珈琲ね」
北沢志保
「評判って……」
最上静香
「結構人気だったのよ?」
矢吹可奈
「うん、おいしいって言ってる人多かったよね」
北沢志保
「そ、そう」
最上静香
「そんなに違うのかなって思ってたけど……なるほど、なんとなく分かる気がする」
矢吹可奈
「むぐむぐ……静香ちゃん、違いの分かる女ふぁね! むぐむぐ……」
最上静香
「あなたはもっと味わいなさい」
北沢志保
いつの間にか、可奈のケーキは2個目に突入していた。
北沢志保
「もしかすると可奈は、この味……知ってるかもね」
最上静香
「そうなの?」
矢吹可奈
「ふぇ?」
矢吹可奈
「……」
北沢志保
いつになく真面目な顔で、可奈はカップに口を付けた。
矢吹可奈
「あー!」
矢吹可奈
「……」
矢吹可奈
「あー……」
最上静香
「駄目みたいね」
北沢志保
「……」
北沢志保
まあ、あの時の味なんて到底真似出来るものではない。そもそも技量が段違いなのだから。
北沢志保
分かっている。分かっているが……少しへこんだ。
北沢志保
「……この珈琲豆、譲って貰った物なの」
最上静香
「へえ、さぞお高い豆なんでしょうね」
北沢志保
「とある外国の珈琲品評会で、何度も受賞している農園の物らしくてね」
北沢志保
「そこで独自に開催してるオークションに参加して、買い付けた物だと言っていたわ」
北沢志保
「今日出したのは、その中でも特に手に入りにくいロットなんだって」
矢吹可奈
「……あ」
北沢志保
可奈も思い出した……というより気付いたようだった。
最上静香
「でも値が張るんでしょ? それって、今後大丈夫なの?」
北沢志保
当然の返し。安定して供給出来る伝手など私にはないし、廉価にすれば味も客足も落ちるだろう。
北沢志保
だが、今日は特上に美味な物を提供する必要があった。
北沢志保
私の本当の目的、それは彼女の――。
(台詞数: 50)