最上静香
「ねえ、志保」
北沢志保
「なに?」
最上静香
「あれ……大丈夫かしら」
北沢志保
静香の視線の先は、陽当たりのいい窓際の席。
北沢志保
窓の前にはそこそこ深い奥行があり、物を置くスペースが確保されている。
北沢志保
最近では、そこへ購入した猫のぬいぐるみや花を飾って、内装を華やかにしたが……。
宮尾美也
「お~なにやらリアルな置物ですね~」
北沢志保
「……リアル?」
北沢志保
ふわふわした喋り方が印象的なお客の手が撫でているのは、やけに見覚えのある真っ黒な……
北沢志保
「ネコさ……猫!?」
北沢志保
静香のいる手前、「ネコさん」と呼ぶのは少し気恥ずかしい。
北沢志保
いや、今はそんなことより。
最上静香
「店内に猫はまずい……わよね?」
北沢志保
「え、ええ。出してくるわ。ちょっとカウンターよろしく」
北沢志保
ネコさん、普段はお店の中まで入ってくる事はないのに……。
北沢志保
「あの」
宮尾美也
「はい~」
北沢志保
「ごめんなさい。すぐに外へ出しますので」
宮尾美也
「でも可愛いですよ~?」
北沢志保
黒猫は金色の双眸をこちらへ向けるが、我関せずという風にすぐ離す。
北沢志保
「一応……飲食店ですから」
北沢志保
そう言い、小さな体を抱き上げ、出口へと歩を進める。
北沢志保
扉を開けて外へ出た、その時――。
北沢志保
「?」
北沢志保
何となく、奥の茂みが揺れたように感じた。
北沢志保
気の所為……か。
北沢志保
ぴょんと腕の中から黒猫が跳ねる。
北沢志保
「ネコさん、あなたは表から入ったら駄目」
北沢志保
叱り言葉で頭を撫でる。
宮尾美也
「お~。ネコさんはネコさんって名前なんですね~」
北沢志保
「な、名前というか、その……」
宮尾美也
「ネコさんネコさんゴロゴロもふもふですね~」
北沢志保
両手で撫でられる黒猫。……それはもう、全身余すことなく。
北沢志保
「……あの、改めて申し訳ありません。私の管理不足で」
宮尾美也
「何がです~? 私は好きですよ~。お菓子も珈琲もおいしいですし~」
北沢志保
「あ、ありがとうございます?」
北沢志保
なんだろう。微妙に会話が噛み合わない。
宮尾美也
「それにここは静かで、緑がいっぱいで……」
宮尾美也
「ふわぁ……。お腹もいっぱいで……なんだか私、眠くなってきちゃいました……」
北沢志保
「はい?」
宮尾美也
「あ~ネコさんも眠そうですね~。では、一緒に寝ましょ~」
北沢志保
「ちょ、ちょっとっ」
最上静香
「志保ー。早くしてくれると助かるのだけれ、ど……?」
最上静香
「……」
最上静香
「どんな状況……かしら?」
北沢志保
「……静香」
最上静香
「なに?」
北沢志保
「後は任せたわ」
最上静香
「は? ちょっと志保、待ちなさーい!」
北沢志保
ありがとう。あなたの犠牲は忘れないわ。
(台詞数: 50)