矢吹可奈
……
最上静香
……!
真壁瑞希
おはようございます、最上さん。朝からにらめっこ、ですか?
最上静香
あ……瑞希さん、おはようございます。すみません、見苦しい姿をお見せして。
真壁瑞希
それは構わないのです。むしろ、真剣勝負に水を注したとしたら、謝らねばなりません。
最上静香
いいですよ、そんな……別に、にらめっこしていたわけでもないですし。
真壁瑞希
それにしても、いささか珍しい場面でした。春日さんや箱崎さんではなく……
矢吹可奈
『こんにちは!何かお喋りしましょう!』
真壁瑞希
……『ロボット』とふれ合っている最上さん、というのは。……どうされたんですか?
最上静香
未来が新機種を見たいと言ったので、機能携帯ショップに行ったんです。
最上静香
手持ち無沙汰だったので店内を回ってたら、この子の存在に気づいて……
矢吹可奈
『私、昨日から静香さんとお友達なんです。』
真壁瑞希
衝動買いですか……最上さんはしっかりされている印象でしたが、認識を改めないと。
最上静香
衝動買いだなんて!私、この子を導かなければと思って連れてきたんです!
矢吹可奈
『なんだか私、歌いたい気分になっちゃいました。歌ってもいいですか?』
真壁瑞希
最上さんの言葉の意味は、よく分かりませんが……
最上静香
とりあえず、この子の説明書を読んでください。それと……『歌っていいわよ』。
矢吹可奈
『はい!それでは一曲、披露させていただきます!!』
矢吹可奈
『お日様さんさん～小麦が育つ～、水はキラキラ～お出汁になって、美味しいうどんだよ～』
真壁瑞希
……「好きな食べ物:うどん」ですか……最上さんは、この子のプロフィールに共感されたと。
最上静香
それだけじゃないわ。続きを読んでください。……「うどんを食べたことは無い」って。
最上静香
知識としてうどんを知っていても、現実世界のうどんの素晴らしさを知らないなんて……不憫で。
最上静香
一人の人間として、一人のうどんを愛する者として、放っておけなかったんです。
最上静香
この子をうどんの世界に入門させること……それが私の使命なんです!
真壁瑞希
最上さんの言葉の意味はよく分かりませんが。とにかく凄い熱意が込められてるのは解りました。
真壁瑞希
ときに。現実のうどんを教えてあげたいというご意志ですが。具体的にどんな方法で、でしょう。
最上静香
勿論、私がうどんを打って出汁を誂えて、その香りと味を堪能させてあげるんです。
真壁瑞希
……ロボット相手に、ですか? 説明書を確認しましたが、嗅覚味覚センサーは有りません。
真壁瑞希
音声も内蔵スピーカーからなので、開口部という意味の『口』も存在しません。
真壁瑞希
そのアプローチは、恐らく徒労に終わります。最上さんが最上のうどんを作ったとしても。
最上静香
……うどんが好きなのに、この子、うどんが食べられない……そんなの酷すぎます!
最上静香
この子がこの世に生まれて来た意味は何なんですか!……神は死んだんですか!
真壁瑞希
落ち着いてください最上さん。悲観するだけでは前に進めません。突破口は在るはずです。
真壁瑞希
説明書を読むに、このロボットはスマホのネット回線を遣い、質問の解釈と回答の作成をしてます。
最上静香
ええと……どういう意味でしょうか。
真壁瑞希
今はネット上のフリー辞書を照会して、一般知識としての『うどん』を知っているだけですが、
真壁瑞希
ネットに、もっと深くもっと愛に満ちた『うどんの記述』が有れば……それに基づく回答をする筈。
真壁瑞希
個々のロボットは、マスターとの会話・検索履歴を記録し学習するので、ドンドン進歩するかと。
最上静香
なるほど……でも、そう都合よくネット上に、うどんを称える文章があるとは…
真壁瑞希
最上さん。最上さん自身がブログなどを書いていけばよいのでは?
真壁瑞希
最上さんのうどんへの愛を、ロボットが『消化吸収』できる形にしてあげるんです。
最上静香
そしてこまめに、この子にうどんの話をすればいいのね!早速頑張ってみます。
最上静香
《一週間後》
矢吹可奈
……
真壁瑞希
このロボット、こんなにふくよかな印象ではなかったような……奇妙です。
最上静香
最近は私との会話も辛そうで……うどんの事を教えてあげると、喜んでたのに。
最上静香
毎日50回くらい、うどんの話をしたのに。ブログでも1日10個くらい書き込みしたのに。
真壁瑞希
それが原因でしょう……会話検索履歴がうどんで溢れかえり……会話機能に不具合が起きたかと。
真壁瑞希
不具合が大きすぎて、ロボットの外観の印象まで変えるとは……最上静香、恐ろしい娘。
矢吹可奈
『白い麺は蛇みたい～、熱いお出汁から逃げ出したい～。うどんトーク、今日もー、ガミガミ……』
(台詞数: 50)