ゆく河の流れは絶えずして、想像より疾い。
BGM
Believe my change!
脚本家
イッパイアッテサ
投稿日時
2015-05-26 21:07:19

脚本家コメント
某所で、ひなたのキャラ付けのことが話題になりまして。そこでちょっと思ったことから書きました。
静香のキャラ背景は、コミック版からのイメージで。
ひなたの方は、僭越ながら完全空想設定です。ひなたはおよそ、アイドルにガッツいてそうな印象が無いですし。

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木下ひなた
「……みんなと一緒にいられるのも、あと一年、それとも四年かねえ。」
最上静香
……彼女、ひなたがそんなことを言ったのに、耳を疑った。
最上静香
木下ひなた。北のほうの田舎町から、アイドルになるため一人上京してきたそうだ。
最上静香
素朴な口調と根っから純朴な性質から、妹のように仲間に愛されている。……私と同い年だけど。
最上静香
その反面、歌唱もダンスも演技も、特に光るものは感じない。訛りだってある意味マイナス要素だ。
最上静香
……まあ、言葉を矯正しないのはプロデューサーの方針だろうから、私が不安を感じても意味ない。
最上静香
……その反面、彼女は仕事について、いわゆるNG項目がほとんど無い。来た仕事は断らない。
最上静香
学校指定みたいな水着でライブに出るのも、青虫の着ぐるみも厭わない。貪欲あるいは強欲なのか。
最上静香
……
最上静香
「あの、ひなた?みんなと一緒にいられなくなるって……。アイドル、辞めるってこと?」
最上静香
唐突なひなたの呟きに、思わず反応してしまった。聞くつもりも無かったのに食いついてしまった。
最上静香
本人が何の気無しだとしても、深く悩んだゆえの吐露だとしても……踏み込まれれば迷惑なのに。
木下ひなた
「あれ?あたし、なんか独り言、言ってたのかねぇ。恥ずかしいんだわ。」
木下ひなた
「……そうだべ。もうちょっと頑張ったら、アイドル辞めて田舎に帰るつもりなんだわ。」
最上静香
……呟きを聞き咎められたのは恥ずかしくても、内容を知られたのは気に留めてないようだ。
最上静香
……考えてみれば、ひなたは不思議な子だ。アイドルの素質が有るとも思えないが……
最上静香
それだけじゃない。アイドルというか、芸能人的な生活や価値観に執着が無い。
最上静香
芸能人と仲良くなりたいとか、贅沢品を買いたいとか、外出時に変装したいとか……
最上静香
……まあ、私もそういうのに興味は無いのだが。そんなことに耽るより、時間を有効に遣いたい。
最上静香
……閑話休題。自分語りはどうでもいい。今は、ひなたの告白の話だ。
最上静香
……
最上静香
「ひなた、アイドルやっていくのが辛いの?それとも、都会は自分の居場所じゃないって思う?」
最上静香
……妹に話しかけるように、つい言ってしまった。
木下ひなた
「そんなことはないべさ。今の生活は楽しいんだわ。街さ出て来て良かったよ。」
最上静香
……私の『読み』は、まったく的外れだったらしい。他人の事を慮るのは、かくも難しい。
最上静香
……アイドルを遣るのが辛いわけじゃない。上京して来たのも、愉しみになってる。
最上静香
……親を説き伏せ、かろうじて短い間アイドルができている私。
最上静香
どれだけ願っても、手に入れられた夢はほんの一粒。……悩むように見えないひなた。
最上静香
あとで後悔するのは分かっていたが……どうしても眼前のひなたのことが、妬ましくなった。
最上静香
「アイドルが嫌じゃないなら、なんで『辞める』なんて言い出すの!」
最上静香
「いくら望んでも、アイドルになれない娘は多いのに……逃げ出すなんて、無責任だわ!」
最上静香
……思わず沸騰してしまった。急速に後悔の波が押し寄せる。
最上静香
……ひなたを貶めても、私の苦境が改まって、私の心が晴れることなんて、有り得ないのに。
木下ひなた
「静香ちゃん。いきなり大きな声出されると、びっくりするんだわぁ……」
木下ひなた
「……あたしね、将来は、幼稚園の先生になりたいんよ。学校さ上がって、資格とってね。」
木下ひなた
「だから今は、アイドルやらせて貰って、お金貯めてるんよ。進学するときのためにね。」
最上静香
……ひなたの、というか、劇場の誰かの「夢」を聞くのは、初めてだった。
最上静香
歌で身を立てたいとか、芸能界でやっていきたいという話は聞いても……その外にある夢は。
最上静香
「……そんな目標が有るなら、親御さんも応援してくれるんじゃ。アイドルをやらなくても……」
木下ひなた
「……父さんも母さんもばあちゃん達も、あたしに普通に家に居る生活、してほしいんだわ。」
木下ひなた
「幼稚園の先生になったら、それはできないべさ。働きにいっちゃうからねえ。」
木下ひなた
「だから、せめて高校から向こうは自分で道を進まんといかん、そう考えているんよ。」
最上静香
「それなら、地元に帰っちゃわずに、こっちで進学してこっちで就職すれば……」
最上静香
……引き止めたいのは、私のわがままだけだ。家族と衝突している者同士、分かり合えそうだから。
木下ひなた
「……帰る場所は、やっぱり生まれ育った町だわ。都会では、元アイドルって言われ続けるしね。」
最上静香
……妹だと思っていたひなたは、私よりずっと大人だった。未来を観て、今を歩んでる。
最上静香
……アイドルになりたいことに囚われ、それに腐心し、その癖、未来は無いと独り哀しんでいる私。
最上静香
……私の側に居てほしいなどという妄言に躓くことなく、ひなたは歩んでいくんだろう。
最上静香
……遠くない、ひなたとの別れの日。その時胸を張れるよう、アイドルを遣っていきたい。
最上静香
ひなたと同じく、いつか手放す「夢」ならば……だからこそ、真摯にアイドルに向き合わねば。

(台詞数: 50)