最上静香
(私はかつて、アイドルを夢見ていた……私がまだ旧姓の最上を名乗っていた頃だ)
最上静香
(そして、私はアイドルだった、もう20年以上前の事だけど……)
最上静香
(両親には反対されたが、私の説得によって条件付きでアイドル活動を認めてくれた……)
最上静香
(その条件は中学卒業までにトップに立つ事、それが無理なら引退して学業に専念しろと……)
最上静香
(仲間と共にステージに立ち、時に競い合う日々はとても充実していた、私の黄金期だった)
最上静香
(でも、タイムリミットは刻々と迫って来て……結局、トップに立つ事は出来なかった)
最上静香
(もう一年……せめて半年あれば届かない場所では無かった、少なくとも私は今でもそう思う)
最上静香
(でも、当時の私は両親を説得する事も無視する事も出来ずに引退……夢はそこで終わったのだ)
最上静香
(それから先は大して語る事も無い、良い高校、良い大学、大手銀行に無事就職……)
最上静香
(そこで今の夫と出会って職場結婚、2児を授かり職場にも復帰して幸せな生活を送っている……)
最上静香
(……そのはずだ、幸せなはずなのだ。でも、心の底では今でも澱のような後悔が沈んでいる……)
最上静香
(もし、私が両親を振り切れたら違う景色が見れたのでは無いか、未来や翼のようにと……)
最上静香
(でも今や全てが手遅れ、容色はまだ衰えないが今から私をデビューさせる所など無いだろう…)
最上静香
(だから待った、私の夢を継ぐ者を、私の辿りつけなかった景色を見る人を……)
最上静香
(子供は息子一人で良いと言った夫を説得して生まれた娘……名前は育、可愛い娘だ)
最上静香
(表向きの名付け理由は健やかに育つ様に……でも本当は違う)
最上静香
(かつての同僚、そして今でもアイドルをしている彼女の名をつけたのだ)
最上静香
(そして今の育は彼女がデビューした年と同じ10歳、ついに待っていた時が……)
中谷育
ねぇねぇおかーさーん!お昼のおうどんは作らないの?ずっとボーッとしてるけど……
最上静香
ねぇ育……あなた、アイドルって好きかしら?
中谷育
……うん!おうどんと同じ位大好きだよ!
最上静香
(まあ、小さな頃から散々ステージを見せたしね……)じゃあ、アイドルになってみたいって思う?
中谷育
えっ、わたしがアイドルに……本当にわたしがなれるの?
最上静香
ええ、実はもうアイドル事務所にお手紙を送って、来ても良いよって返事をもらってるの!
中谷育
そのアイドル事務所って所に行ったらアイドルになれるの?
最上静香
そうよ、デビューできるかはあなたの頑張り次第だけど……
最上静香
あなたなら出来るはずよ!大好きなアイドルに、私がなれなかったトップアイドルに……
中谷育
うん!わたしアイドル頑張るね!
最上静香
そうそうその意気よ!今日は頑張れるように美味しいおうどん作るからね……
最上静香
(……多分、これは両親と同じ押し付けなのだろう、私があれだけ嫌がっていた事と……)
最上静香
(でも、それでも夢を諦める事は出来なかった…夢を諦めるなと歌ったのは私達なんだから……)
(台詞数: 31)