たそかれとき
BGM
Melody in scape
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-07-28 00:24:36

脚本家コメント
夕焼けって、怖いですよね
一応、蛇足のような続きがございます。
「かはたれとき」
http://imas.greeーapps.net/app/index.php/short_story/info/uid/800000000000086274/seq/44

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伊吹翼
「バスがこなーーーい!」
伊吹翼
私の叫び声は道いっぱいに広がることなく、そのまま茜色の空に消えていった。
伊吹翼
足をバタバタさせても怒る静香ちゃんはいない。暇を潰そうにも話す未来もいない。
伊吹翼
だいたい、なんで私はこんなところに1人でいるんだろう?
伊吹翼
私はベンチから立ち上がり、バスの到着時刻を確認する。
伊吹翼
16:56……うん、16:56だ。もう何回確認しただろう。
伊吹翼
腕時計に目を落とせば、短針は5を指しているのに、長針は1を指そうとしている。
伊吹翼
私は大きくため息をついて、足元の石を蹴る。石は音もたてずに用水路へ落ちた。
伊吹翼
視界に入った自分の影は道路に沿って、細く、長く、黒く伸びている。
伊吹翼
影はいつか途切れるけれど、どこまで見ても道は途切れない。
伊吹翼
身を返して陽の指す方を見る。こちらの道も途切れることはないが、暗い山へと続いている
伊吹翼
バス停のベンチに深く腰掛けて空を見上げる。なんでこんなところにいるんだろう?
伊吹翼
確かに私はレッスンルームにいたはずで、静香ちゃんと未来と踊っていたはずで、
伊吹翼
あれ?違う??ステージで未来と杏奈と百合子ちゃんと瑞希ちゃんと歌って……
伊吹翼
違う違う。今日は私の誕生日で、亜利沙さんや茜ちゃんや美希先輩に祝ってもらって……
伊吹翼
でも、エミリーと戦って……恵美さんや可奈ちゃんとセッションして……肝試しで驚かせて……
伊吹翼
……私、何やってたんだっけ。
伊吹翼
ズキリと頭に鈍い痛みが走る。なんだか手や足もヒリヒリする。
伊吹翼
見上げた空にカラスが見える。カァと鳴かないカラスが見える。
伊吹翼
まぁ、いっか。バスを待とう。去りゆくカラスを見送って、目を閉じた。
伊吹翼
……静かだった。
伊吹翼
声をあげても響かない。石を蹴っても水の音がしない。振り返っても砂利の音がしない。
伊吹翼
あまつさえ、カラスも鳴かない……
伊吹翼
ふと、足元にぬるい気配を感じた。音こそしないが、間違いなく水だった。
伊吹翼
水は少しずつ少しずつ上がっていく。
伊吹翼
つま先から徐々に水が浸ってくる。目を開けて確認したいが、瞼はしっかりとくっついて離れない。
伊吹翼
水はくるぶしを越え、膝を越え、太ももをゆっくりと確実に浸していく。
伊吹翼
ああ、このまま水につかっていてもいいかもしれない。どうせ、バスも来ないだろうし……
伊吹翼
『こんなところで寝ていると、風邪をひきますよ~?』
伊吹翼
突然、耳元で声がする。聞き間違えようのない特徴的な声。
伊吹翼
『む~、困りました~。翼ちゃんが起きてくれません』
伊吹翼
『美也は甘いの。起こすときはしっかり起こさないとダメだって思うな』
伊吹翼
今度は別の声がした。これもまた、絶対に聞き間違えようのない声。
伊吹翼
『翼、起きるの!』
伊吹翼
美希先輩の声を合図に、瞼がぱちりと開く。
伊吹翼
目の前には変わらずの茜色の空と黄金色の田んぼがあった。
伊吹翼
足元を見る。先ほどまで間違いなく水が浸っていたはずだが、道はからからに乾いている。
伊吹翼
『おお~、起きました~。美希ちゃんはすごいですねぇ~』
伊吹翼
美也さんの声がどこからか聞こえてきた。
伊吹翼
『これぐらい楽勝なの』続いて美希先輩の声。
伊吹翼
「美也さん!美希先輩!どこにいるんですか?」
伊吹翼
『それはこっちのセリフなの。翼がなんでここにいるの?』
伊吹翼
『まぁ、いいじゃないですか。さぁ、翼ちゃん、戻りましょう』
伊吹翼
気付けば目の前に一台のバスが止まっていた。逆光でよく見えないが、バスには人影が見える。
伊吹翼
『翼、早く戻ってくるの』『みんなが待ってますよ~』
伊吹翼
私はふらふらと立ち上がり、バスのステップに足をかけた。
伊吹翼
ふと、後ろに気配を感じ振り向く。真っ黒な田んぼが目に飛び込んでくる。
伊吹翼
カラスだ。田んぼ一面にぎっしりと立ったカラスが、何も言わずに私を見つめていた。
伊吹翼
私は前を向き直し、背中に感じる視線を無視して、バスへと飛び乗る。
伊吹翼
『もう来ちゃダメだよ?』美希先輩の声が暖かく私を包み込んだ。

(台詞数: 50)