伊吹翼
今日は、わたしとプロデューサーさんとの、二人だけのお祝い会。
伊吹翼
今度のドラマの主演を、わたしがオーディションで勝ちとったのだ。
伊吹翼
「頑張ったご褒美として、二人だけでお祝いしたいな。ダメぇ?」
伊吹翼
ダメ元で言ってみたら、なんとOKだった。
伊吹翼
(緊張する……。)
伊吹翼
家族は今誰もいない。みんな事情を察したのか、快く二人っきりにしてくれた。
伊吹翼
「あ、あんまり女の子の部屋をジロジロ見ちゃダメです……。」
伊吹翼
キョロキョロしてるプロデューサーさん。あっちも落ち着かないみたい……。
伊吹翼
気をまぎらわす為に、用意しておいた軽食と飲み物を出す。
伊吹翼
さっきの緊張はどこへやら。話が弾む。とっても楽しい時間……。
伊吹翼
(プロデューサーさんの、この笑顔、大好き……。)
伊吹翼
つくづく、この人が好きなんだなあと実感する。
伊吹翼
良い感じの雰囲気。切り出すなら、今しかない。
伊吹翼
「プロデューサーさん。ちょっとだけ、今度のドラマの練習に付き合ってくれませんか?」
伊吹翼
台本を取りだし、そのシーンを見せる。
伊吹翼
……キスシーン。本番でも、フリだけでOKみたいなんだけど。
伊吹翼
少し考えたプロデューサーさんは、優しく微笑んだ。
伊吹翼
フリだけだぞ。そう言って、プロデューサーさんが立ち上がる。
伊吹翼
「それじゃあ、いきます……。」
伊吹翼
深呼吸を1つ。プロデューサーさんの正面に移動する。
伊吹翼
『私がここまで頑張ってこれたのは、あなたのおかげなんです……。』
伊吹翼
わたしは、台本通りの台詞を言った。
伊吹翼
『あなたには、本当に感謝しています。私の気持ち、受け取ってもらえますか……?』
伊吹翼
これも、台本通りの台詞。でも、わたしの心からの、本当の気持ち。
伊吹翼
『目を……閉じてください……。』
伊吹翼
わたしがそう言うと、プロデューサーさんはそっと目を閉じた。
伊吹翼
(本当は、キスするフリだけの約束だけど……)
伊吹翼
(ごめんなさい。最初から、このつもりだったんです……。)
伊吹翼
「んっ……」
伊吹翼
プロデューサーさんの胸に手を添え、少しだけ背伸びをして……唇と唇を付ける。
伊吹翼
プロデューサーさんは、最初戸惑ったみたいだったけど……振りほどく事はしなかった。
伊吹翼
代わりに、わたしの背中に手が回され、抱き締められる。
伊吹翼
「んんっ……。」
伊吹翼
(嬉しい……。受け入れてくれたんだ……。)
伊吹翼
拒絶されなかった事への安心と喜びで、気持ちが高ぶる。
伊吹翼
(わたし、プロデューサーさんに抱き締められながら、キスしてる……。)
伊吹翼
(すごく、幸せ……。)
伊吹翼
ついばむようなキスを何度か繰り返し、少しだけ顔を離した。
伊吹翼
「プロデューサーさん……。」
伊吹翼
二人で見つめ合う。プロデューサーさんが愛しい……。
伊吹翼
(顔が熱い。わたし、きっと顔真っ赤になってるよ……。)
伊吹翼
14歳の頃のわたしは、どちらかと言うと、プロデューサーさんを異性としてではなく……
伊吹翼
頼れる大人の男性として、見ていたんだと思う。あの気持ちは、多分、憧れだった。
伊吹翼
でも、今のこの気持ちは……きっと、本物の恋。
伊吹翼
「好きです。プロデューサーさん……。」
伊吹翼
わたしの想いが、少しでも多く伝わるように……
伊吹翼
プロデューサーさんの首の後ろに手を回し、抱き付いた。
伊吹翼
「プロデューサーさん。さっきのキスシーン、もう1回練習したいな……。」
伊吹翼
「……………
伊吹翼
「……………ダメ?」
(台詞数: 50)