田中琴葉
繰り返す今日。
田中琴葉
繰り返す毎日。
田中琴葉
何回も、何回も──。
田中琴葉
そんなありきたりな舞台で、私はまた、彼女たちの「悲劇」を書こうとする。
田中琴葉
襲い来る理不尽な悲劇を乗り越えて“普通”を手に入れる。そんな酷く陳腐な構想があった。
田中琴葉
──なぜ。
田中琴葉
ランプの灯が揺れる。
田中琴葉
苦難を乗り越えたそれらは、通常よりも価値があると考えるからだ、と私は答える。
田中琴葉
──その為に、また──すの?
田中琴葉
……やむを得ない。
所恵美
──アタシたちは、あんたの人形じゃない。
田中琴葉
過去の音声データを継ぎ合わせて作ったような無機質な音が、空気を震わせて耳に届く。
所恵美
──アタシたちはまた、苦しまなければならない。
所恵美
──肉体的にも、精神的にも。
田中琴葉
──あなたに、この痛みが分かりますか。
田中琴葉
分かるはずがない。私は君らと違い、現実で生きているのだから。
田中琴葉
瞬間、画面の中の2人が私を睨む。
所恵美
──なら、分からせてあげるよ。
田中琴葉
彼女の口が笑みの形に歪むのを見た瞬間、目の前が真っ白に染まった。
田中琴葉
────
田中琴葉
目を覚ますと、私は電車の中にいた。
田中琴葉
構想が煮詰まってしまい、いつの間にか眠ってしまったようだ。
田中琴葉
辺りを見渡すと、車内にいる乗客は疎らだ。
田中琴葉
……今、執筆している話もこんな風景だったか。
田中琴葉
そんな事を考えていると──
所恵美
「にゃはは、いいですよ~」
田中琴葉
女性の声が聞こえた。
所恵美
「さっきからやけに揺れますよね~。音もうるさいし、電車って大変」
田中琴葉
「え、ええ。本当に……」
田中琴葉
歓談を持ち掛ける女性と戸惑う女性の姿があった。
田中琴葉
その光景を見て、私は胸のざわつきを覚えた。
田中琴葉
同じだ、全て。私が頭の中に描いている物語と。
所恵美
「──あのさ、なんで──泣いてんの?」
田中琴葉
「えっ……。え?」
田中琴葉
額に汗が浮かぶ。一刻も早くここから逃げ出さなければ。
田中琴葉
荷物も持たずに席を立つ。
所恵美
「それとさ──」
所恵美
「なんでアタシたち、こんな“茶番”やってんだろ──」
田中琴葉
刺すような視線を背中に感じた。
田中琴葉
そして、「悲劇」は起こる。
田中琴葉
けたたましく鳴る金属音に耳を塞ぐ間もなく、急ブレーキの反動で私の身体は宙に投げ出された。
田中琴葉
視界は天地を逆に映し、それは一瞬で衝撃と共に圧縮され──
田中琴葉
そして、砕けた鉄塊の先端が、私の心臓を貫いた。
所恵美
「……」
田中琴葉
「……」
田中琴葉
4つの怨嗟を込めた瞳が、物言わず見下している。
田中琴葉
ああ、これが彼女たちの痛み。この痛みを抱いて、私は自らの構想の中で果てるのだ。
田中琴葉
やはり、世界は真っ黒だった。
田中琴葉
……しかし、念願であった彼女たちと出会い、その下で果てられるのだ。
田中琴葉
せめて……黒に近い灰色にでもしておこうか。
(台詞数: 50)