所恵美
窓から空を見上げると、普段ではほとんど見ないような真っ赤な月が浮かび上がっていた。
所恵美
部屋の壁に掛けられた時計を見やると、時間は午後8時を過ぎていた。
所恵美
部屋に、女の子のすすり泣くこえが聞こえる。
田中琴葉
「うぅ…ぐすっ…」
島原エレナ
「コトハ…」
所恵美
泣いているのはアタシの親友、琴葉。隣にはエレナの姿もある。
所恵美
エレナも散々泣きはらしたみたいで、目が真っ赤になっていた。
田中琴葉
「恵美…ぐすっ…」
所恵美
アタシの体に縋りつきながら泣いている、一向に泣き止む様子はない。
所恵美
琴葉の頭を撫でてあげるとこも、泣かないでと声をかけることもせず、ただただアタシは…。
所恵美
病室の隅っこで、その光景を眺めるしかできなかった。
所恵美
――――――――――。
所恵美
この状態は所謂『幽体離脱』というやつだとおもう。亜美真美がネタでやってたアレ。
所恵美
二人がテレビで披露するネタを笑ってみていたアタシがまさか体験するとは思いもしなかった。
所恵美
どうしてこんなことになったかと言うと、思ったよりも話は長くならない。
所恵美
今日の昼、アタシ達三人はいつものように街に繰り出していた。
所恵美
お昼はやっぱりファミレスだよね。どんな服を身に行こうかな。カラオケ行きたいね。
所恵美
そんな他愛のない話をしながら、信号待ちをしていると。
所恵美
突然、車の運転をミスった車がアタシたちに突っ込んできた。
所恵美
こっちに近づく車を視界の端に捉えた瞬間、アタシの体は動いていた。
所恵美
アタシは二人を守るように突き飛ばして。
所恵美
アタシは暴走車に突き飛ばされた。
所恵美
碌に受け身も取れずに、強かに地面に体を打ち付ける。
所恵美
痛みで滲んだ視界には、何があったのか分からず呆然としている二人の姿が映る。
所恵美
良かった、二人に怪我はないみたい。可愛いんだから、怪我なんてしたら大変だよ、にゃははっ。
所恵美
霞がかかったような、ぼんやりとした意識でそんなことを考えながら、アタシは気を失った。
所恵美
――――――――――。
所恵美
というのが事の顛末で、再び意識が戻ったと思ったらアタシは幽体離脱していた。
所恵美
どうやらアタシの体は思ったよりひどい外傷はなかったらしい。正直、即死すら覚悟してたけど。
所恵美
ただ、意識が戻る様子が全く見られないことが問題らしい。まあ、意識はここで漂ってるわけだし。
所恵美
アタシが目覚めないことを、琴葉は自分のせいだと言って、ひたすら自分を責めてるみたい。
所恵美
エレナも、琴葉がほっとけないのと自責の念がない交ぜになってひどいことになってる。
所恵美
アタシとしては、そんな二人の顔を見たくて守ったわけじゃない。
所恵美
だから、さっさと目を覚ましてアタシは大丈夫だって二人に声をかけたいんだけど…。
所恵美
アタシ、どうすれば目が覚めるんだろうね?
(台詞数: 35)