ReRise第33話『田中琴葉』
BGM
朝焼けのクレッシェンド
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-05-02 22:46:56

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田中琴葉
舞台袖から現れた私を見て、観客席の喧騒がさっと引いていく。
田中琴葉
エレナが突然泣き出して混乱していたところに、今度は私がアナウンスも無しで登場した。
田中琴葉
何をするのだろう、という視線が、私に集まっている。
田中琴葉
私は観客席に一礼して、口元にマイクをかざして。
田中琴葉
そこにイントロが流れ出して、私が何を歌うかを知ったファンがざわめき始めた。
田中琴葉
私の選曲は、事情を知らない人から見れば、異常に映ったでしょうね。
田中琴葉
でも、私の中では、いたってシンプルな結論。
田中琴葉
勝敗を投げ打って、ただ私に呼びかけるために、ステージに立ったエレナ。
田中琴葉
それに応えるには、私も勝敗を捨てて、応えるしかない。
田中琴葉
『朝焼けのクレッシェンド』。
田中琴葉
すでに一回戦でソロ曲を歌っている私がこれを歌えば、明らかなルール違反。
田中琴葉
それでも、私とエレナがフェアであるためには、こうでなくてはいけないと思ったから。
田中琴葉
勝敗がどうなっても構わない。恵美が言った『負けないで』は、勝ち負けのことじゃない。
田中琴葉
あらゆるものに負けずに、自分を貫き通せと。
田中琴葉
だから、私はこれを最善の選択と信じて、疑わなかった。
田中琴葉
その意味がわからないはずはないのに、恵美は一言も口を挟まなかった。
田中琴葉
恵美だけじゃない。美也も、海美ちゃんも、環ちゃんも。
田中琴葉
私を立ち上がらせ、背中を押してくれた仲間たちは、私のこの判断を支持してくれている。
田中琴葉
これを歌うのは、本当に久しぶりね…。
田中琴葉
今思えば、春香ちゃんに負けたあの時から、この歌を敬遠していたのだと思う。
田中琴葉
…自分の弱さの象徴と思い込んで。
田中琴葉
いいえ、歌だけじゃないわね。
田中琴葉
仲間のプライドも背負うと言いながら、私はその仲間さえ切り捨てていた。
田中琴葉
その想いを責任や重圧と感じて。だから、それを背負うのが怖くて。
田中琴葉
自分一人で歩めば楽になるだろうと、身勝手に考えて…!
田中琴葉
だけど…今は違う。
田中琴葉
エレナが私の心を溶かし、『灼熱少女』の仲間たちが、私に力をくれた。
田中琴葉
ここにいるのは、『灼熱少女』のリーダー、田中琴葉。
田中琴葉
私は私のまま、歩き続けていく。
田中琴葉
これからも、弱気になる事や苦しい事、辛い事なんて、山ほどあるかもしれない。
田中琴葉
だけど、何一つだって手放さないわ。
田中琴葉
屈しない。曲げない。諦めない。
田中琴葉
私に想いを注いでくれる人たちを、裏切りはしない。
田中琴葉
どんなに険しい道でも、その想いを全部背負ったまま、突き進んでみせる。
田中琴葉
それが、田中琴葉のプライド。
田中琴葉
もう私は、二度と自分を見失わないわ。
田中琴葉
…だから、聞いていてね、エレナ。
田中琴葉
私がもう一度私になれたのは、あなたのおかげ。
田中琴葉
あなたの想いへの答えとして、この歌を捧げるわ。全身全霊を込めて。
田中琴葉
息を吸い、最初のフレーズを口から紡ぎ出す。
田中琴葉
私の口から現れたのは、歌という単語には収まらないほどの、感情のかたまりで…。
田中琴葉
そして何故か、そこに痛みはなく、むしろ爽快ささえ感じるものだった。
田中琴葉
それは、波のように広がっていって、会場を満たしていく。
田中琴葉
力強く。優しく。そして、少しもぶれることはなく。
田中琴葉
響いていく。どこまでも、どこまでも…。

(台詞数: 45)