田中琴葉
…どうして?
田中琴葉
エレナ…。どうして、泣いているの?
田中琴葉
私は、ただ自分と仲間のプライドを守りたかっただけ…。
田中琴葉
エレナを…大事な友達を、泣かせるつもりなんて、無かったのよ…。
田中琴葉
『ホントウノワタシ』を聞いていた時は、まだ自分を保っていられたのに。
田中琴葉
悲痛な鳴き声が、私を支えてきたものを、突き崩してしまったようだった。
田中琴葉
突然のことに、ステージはざわめいていた。私の周囲も、慌ただしく動いている。
田中琴葉
『すぐにいけますか?』と訊いてきたスタッフに、『はい』と答えた。
田中琴葉
そうよ…。私が出て、場を収めればいい…。
田中琴葉
だけど、どうして…膝に力が入らないの!?
田中琴葉
足を進めようとして、そんなことさえかなわなくて、その場に膝をつく。
田中琴葉
やめて…やめて…!お願いだから…!
田中琴葉
仲間の手を振り払って、ここまで来たのに。また何もできない私に戻るなんて…。
田中琴葉
動いてよ、私の体…!
田中琴葉
…その時、ぐっと私の体が軽くなって。
田中琴葉
私の腋に頭を差し入れて、肩を貸すようにしているのは…恵美!?
所恵美
「あははっ…。ダメダメ。泣く子とエレナには勝てないってね。」
田中琴葉
「恵美…。」
田中琴葉
…恵美だけじゃない。ステージに目を向ければ、そこには他の三人が。
田中琴葉
美也はエレナを舞台袖に導いて、海美ちゃんと環ちゃんは、ステージで間を持たせてくれている。
田中琴葉
「どうして…。」
田中琴葉
もう私のことを諦めてくれたって、思ったのに。
所恵美
「アタシたち…話し合ってさ。とことん話し合ったんだよ…。」
所恵美
「エレナや環を泣かせたのはダメだけどさ、琴葉の言ってること自体は、間違いじゃなかった。」
田中琴葉
恵美は、しばらくぶりに見たその顔は、真っ直ぐこちらを見つめてくる。
所恵美
「アタシたちね。真面目で、一生懸命で、カッコいい琴葉が、大好きだよ。」
所恵美
「そうなろうって頑張ってた琴葉を裏切ったのは、アタシたちの方だったよね。ごめん…!」
田中琴葉
ぽつぽつと、熱い雫が床に滴り落ちる。
所恵美
「琴葉が『チョーエツ』とかいう変な力に頼ったとき、『やめろ』なんて言うべきじゃなかった。」
所恵美
「『そんなものに頼らなくていい。アタシたちが力になるから』って言わなくちゃいけなかった!」
所恵美
「アタシたちも、追いつけるように限界までついていくから、琴葉も負けないで!」
所恵美
「田中琴葉は…アタシたちの誇りなんだよ!」
田中琴葉
…何故かしら。その言葉を耳が聞いて、脳が理解して、心に届いた瞬間。
田中琴葉
私の脳天から足元まで、熱い線のようなものが一直線に貫いて。
田中琴葉
そこから、じわじわと全身に熱が伝わっていく…。
田中琴葉
「…ありがとう、恵美。もう、大丈夫よ。」
田中琴葉
膝に力が入る。支えられなくても、立っていられる。
田中琴葉
頭の中にこびりついていた迷いは、いつの間にかどこかへと消えてしまった。
田中琴葉
今の私には…何をすべきか、はっきりとわかる!
田中琴葉
「…恵美。少し手伝って。」
田中琴葉
涙で濡れた目でこちらを見る恵美に、私は声をかけた。
田中琴葉
「歌いたい曲があるの。予定には無かったけど、エレナへの返事として、ね。」
田中琴葉
私がその曲名を口にすると、恵美の顔は満面の笑みになって。
所恵美
「オッケー!みんなに伝えてくる!」
田中琴葉
恵美が走り、今度はさっきとはまた別の慌ただしさで、舞台袖がごった返す。
田中琴葉
私以外が全力で動き回って、驚くほどの短い時間で、曲の準備が整っていた。
所恵美
「…琴葉、準備できたよ!」
田中琴葉
恵美の声に、私は大きく頷いて。
田中琴葉
「ありがとう…みんな!」
田中琴葉
私は、みんなへの想いとともに、ステージへ力強く一歩を踏み出した。
(台詞数: 50)