ReRise第30話『うつろう想い』
BGM
ホントウノワタシ
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-04-28 00:10:09

コメントを残す
田中琴葉
…決勝に進むのは、静香ちゃんなのね。
田中琴葉
予想を覆されたのは意外だったけど、この目で見れば納得するしかない。
田中琴葉
さっきのステージで、静香ちゃんはまず間違いなく、私と同種の力を発揮していた。
田中琴葉
静香ちゃん本人は、無我夢中で気付いていなかったかもしれない。
田中琴葉
同じように瑞希ちゃんも、静香ちゃんに引きずられたことに、気付いてないと思う。
田中琴葉
冷静な瑞希ちゃんが、クレバーな立ち回りを忘れてしまうほどの、訴求力。
田中琴葉
最初は小さな兆しだったけど、紗代子との激戦を経て、確実にその力を開花させているようだった。
田中琴葉
このまま順調に力を伸ばしていけば、決勝戦ではおそらく私と互角か、それ以上。
田中琴葉
そして、私とは違って、仲間との絆を手にしながら、歩みを進めてくる。
田中琴葉
本当にまっすぐで、強い子ね…。
田中琴葉
私と同じように苦い敗北を味わいながら、より強く、優しくなって、もう一度立ち上がってみせた。
田中琴葉
誰か身近に導いてくれる人がいたのかもしれないけど、それもあの子の人徳。
田中琴葉
自分を気遣う人の手を振り払った私とは、比べるべくもない。
田中琴葉
最初の頃は私のところへ何度も来ていた仲間も、今日は誰一人として姿を見せなかった。
田中琴葉
少しの安心と大きな寂しさの両方が、胸をよぎる。
田中琴葉
…ねえ、恵美。あなたの言ってることは、正しい。私だって、そう思うわ。
田中琴葉
自分が犠牲になっては意味がない。また今度頑張ればいい。どれもこれも正論よ。
田中琴葉
でも、正論では救われないものがあるの。
田中琴葉
それは、プライド。
田中琴葉
私一人のものだけじゃない。『灼熱少女』のリーダーとしても。
田中琴葉
『灼熱少女』の看板を背負いながら、『リコッタ』の春香ちゃんに惨敗したあの時。
田中琴葉
プロデューサーや仲間の期待を受けながら、手も足も出なかったあの時。
田中琴葉
潔さの建前で、悔しさと惨めさを押し殺したあの時。
田中琴葉
これ以上、裏切りたくない。これ以上、諦めたくない。これ以上、繰り返したくない。
田中琴葉
ただその想いだけで、私は立ち続けている。
田中琴葉
…あなたたちのためなんて、恩着せがましく言うつもりはないわ。
田中琴葉
結局、ただの意地でそうしているだけなのは、自分でもわかっているから。
田中琴葉
だけど、仕方ないなんて言われたくはなかった。
田中琴葉
そんなものより、琴葉が大事だと。『そんなもの』なんて、言ってほしくなかった。
田中琴葉
私が誇りに思う『灼熱少女』を…。
田中琴葉
だから私は突き放した。優しいあなたたちが、『灼熱少女』を『そんなもの』にしてしまう前に。
田中琴葉
アイドルならば、ステージの上で止めてみせなさいと、不可能なことを言って。
田中琴葉
その気持ちを、踏みつけにして…。
田中琴葉
…ごめんね。もうすぐだから。
田中琴葉
長くても、あと2曲。それで、すべてが終わるわ。
田中琴葉
明日は私の出番。この数日、身体を休めていたから、調子は悪くない。
田中琴葉
…エレナ。私の前に立ち塞がる、もう一人の親友。
田中琴葉
出場者の中では比較的地味に見せていたけど、私に向けられる視線には、力が感じられた。
田中琴葉
エレナには、権利がある。ステージの上に立ち、私を止めることができる権利が。
田中琴葉
そして、私はその想いを全力で受け止める義務がある。それだけは疑いようもなくて。
田中琴葉
「…待ってるわ。」
田中琴葉
自分でも、意味がわからない言葉が、ぽつりとこぼれ出る。
田中琴葉
それは、とめどなくうつろう想いが、ふっと私の口から漏れ出したようだった。

(台詞数: 43)