田中琴葉
「…とりあえず、この部屋に居なさい。外出は許さない。用があれば、ベルを鳴らしなさい。」
七尾百合子
「…こ、この部屋は…!!」
七尾百合子
「凄い蔵書じゃないですか!あの推理作家の初版本に、ずっと昔の辞書。絵巻物まで!」
田中琴葉
「…ふふっ、あなたも所詮人間ね。興奮すると周りが見えなくなるなんて。」
七尾百合子
「あっ…。」
七尾百合子
そうでした。肉体の痛みが無いせいか、自分が虎口に飛び込んだままの事を失念していました。
七尾百合子
書籍と、高尚な家具が備えられた書斎。その心地好さに似つかわしくない…デストルドーの紋章。
七尾百合子
…総統・琴葉の前に為す術無く破れた私は、デストルドーの拠点に連行されたようです。
七尾百合子
意識を失っていたため、ここが地図上何処にあたるか分かりません。日本かどうかすら。
七尾百合子
体は気絶中に治療されたようです。…その時、携行していた通信機や発信器は破壊されたでしょう。
七尾百合子
セーラーズの皆の救援は望めない。となれば、この窮地を自力で脱出するしかないです。
七尾百合子
この建物の構造を探らねば…その前に、幻覚剤の類いを使われていないかセルフチェックを…。
田中琴葉
「投薬なんてしていないわ。そんな事するなら、さっき脳改造を施してるわ。」
七尾百合子
…読書するふりをして、本や家具に誤魔化しがないか確認しようとしましたが、見透かされました。
七尾百合子
「…意外ですね。破壊衝動の化身のようなデストルドーが、こんな美徳のある建物を遣うなんて。」
田中琴葉
「まさか、コンクリ打ちっぱなしの要塞や、地下空間しか想像していなかった?我らの拠点を。」
田中琴葉
「我々は何でも手に入れられる。数多ある拠点には、こんな場所もあるわ。」
七尾百合子
「…何でも手に入れられるから、人並みに贅沢や安らぎも欲しくなる、と?総統閣下?」
田中琴葉
「そんなもの、どうでもいいわ。なんとなくこの部屋に火を放っちゃうかもしれないし。」
七尾百合子
私の挑発も受け流し、琴葉は、床に落ちていた二世紀は昔の本を足蹴にしました。
田中琴葉
「本なんて無価値ね。読んで、知恵や冒険経験を得たと錯覚するための、ごっこ遊びの玩具。」
田中琴葉
「現実世界で全てを獲られる者には、空想世界なんて全てくだらない。時間潰しにも使えない。」
七尾百合子
「デストルドーの最終目的は、何?全てを支配して、それから何を為すつもり?」
田中琴葉
「……」
田中琴葉
「…さて、何を為そうかしら。特に考えてないわ。」
田中琴葉
「支配できる他者が在るから、支配する。破壊できる物が有るから、破壊する。それだけよ。」
七尾百合子
「……」
田中琴葉
「そうね…。貴女なら何がしたい?全てを支配する力が有ったなら。」
七尾百合子
「…世界を、人々を護るために、力を使います!」
田中琴葉
「そんな上っ面の答えは求めてないわ。それとも、脳に直接尋問しましょうか?」
七尾百合子
「…世界中の本を蒐集して、誰にも妨害されず読む、とか…。」
田中琴葉
「そう。それならずっとこの部屋に居るといいわ。気が済むか、寿命が尽きるまで。」
七尾百合子
琴葉はそう言い捨てて、この鍵ひとつ無い『監獄』に私を押し込め、出ていこうとしました。
七尾百合子
「ま、待ちなさい!!…力及ばない私を、なぜ何もせず生かしておくの?屈辱を与えるため!?」
田中琴葉
「…何となく、よ。」
田中琴葉
「貴女は私の『戦利品』。そこの本と同価値よ。」
田中琴葉
「もしかしたら、私に『愉しみ』を齎すかも。取り敢えず残す。その内、うち遣るだろうけど。」
田中琴葉
「『正義』を求めるのにも、『友情』に殉じるのにも、喜びを得られなかったのよ、私は…。」
七尾百合子
…重い木の扉に遮られ、私と琴葉の問答は打ち切られました。
七尾百合子
…デストルドー総統・琴葉。その過去は闇に包まれています。
七尾百合子
思考回路が全く異なる、理解し合えない異星人なのか。はたまた、過去に傷つき過ぎた普通の人か。
七尾百合子
相手の『痛み』に共感し、寄り添い、共に『心の弱さ』を乗り越える。ときに拳を交えてでも。
七尾百合子
それが、悪に染められた人への、セーラーズのアプローチ。…かつて紗代子さんを救ったように。
七尾百合子
でも私は、琴葉に共感できない。理解できない。正義も友情も信じず、なんの喜びも得ないなんて。
七尾百合子
……
七尾百合子
……私は、マイティセーラー。どんな人でも、救わなければならない。…総統・琴葉も。
七尾百合子
相手に共感できないなら……その『枷』になる、私の心の拘りを、外さねば。
七尾百合子
…胸のアミュレットを外しました。正義を求め、友情に殉ずる、私の心を封じ込めて。
七尾百合子
「仲間は、幻想。必要なモノは、力だけ。弱さは、罪。必要なのは力…。力こそ…正義!」
田中琴葉
「…ようこそ百合子、闇の世界へ!……デストルドーは、……いえ、私は百合子を歓迎するわ!」
(台詞数: 50)