Happy ReーBirthday
BGM
ホントウノワタシ
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-10-05 01:27:06

脚本家コメント
『大丈夫、琴葉は強い子だから』
『ダイジョウブ、コトハは負けないヨ』

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田中琴葉
ああ、これは夢だ……
田中琴葉
私はぬるいドロッとした液体に腰まで浸って、体育座りをしている。
田中琴葉
辺りを見回す。ドーム状のかび臭い天井、くすんだタイルが敷き詰められた壁。黒く淀んだ液面。
田中琴葉
灯りなんて一つもないのに、周囲の様子が分かるのは……ゆっくりと顔を上げ、真上を見る。
田中琴葉
天窓が開いている。その中央から垂らされている一本の紐。その先には曇った空と一羽のカラス。
田中琴葉
「……まるで、地獄に落とされたカンダタね」
田中琴葉
音の出ない溜め息を深くひとつ吐く。
田中琴葉
私は"蜘蛛の糸"に手をかけてゆっくりと力を込めた。
田中琴葉
あながち童話は嘘じゃないようだ。私の心配をよそにびくともしない。
田中琴葉
ねっとりとした液体を蹴って、ゆっくりとしっかりと登っていく。
田中琴葉
やがて足の先が液体から離れ、体が軽くなった。この調子なら……
田中琴葉
「……っ!」
田中琴葉
足首を掴まれる感覚。冷たくもなく熱くもなく、ただただ"掴まれた"という感触だけ。
田中琴葉
思わず下を向きたくなるが、既に自分の身長の倍は登ってきた。下を見るのは、マズい。
田中琴葉
気にせずに腕に力を籠めようとする。
田中琴葉
『琴葉……』「…っ!?」
田中琴葉
声だ。しかも聞き覚えのある声。
田中琴葉
『琴葉……』『コトハ……』
田中琴葉
どんどん声が増えていく。それにつられるように足を掴む感覚も一つまた一つと増えていく。
田中琴葉
『琴葉…』『コトハ…』『琴葉さん』『琴葉ちゃん』ギュッと目をつむって、腕を動かす。
田中琴葉
『琴葉さん』『琴葉』『田中さん』『コトハ』『琴葉さん』『琴葉お姉ちゃん』『琴葉さん』
田中琴葉
『琴葉さん』『琴葉ちゃん』『琴葉』『コトハ』『琴葉さん』『琴葉』琴葉琴葉琴葉琴葉琴葉
田中琴葉
コトハコトハコトハコトハコトハコトハココトハコトハコトハコトハコトハココトハコトハコトハ
田中琴葉
……私の腕が……止まった。
田中琴葉
『ことは、一緒に遊ぼうよ』『そうだよ琴葉、一緒にさ』『そうですよ~、琴葉ちゃん』
田中琴葉
慣れ親しんだ声が私を包む。身体の下の方から軋む音がする。
田中琴葉
『琴葉さん!まだレッスンの途中です!』『琴葉さん、演技指導、お願いします!』
田中琴葉
共に励んだ声がする。上を向いていた顔が自然と下を向く。
田中琴葉
『琴葉、どうして一人で行っちゃうのさ』『コトハはワタシたちを置いてっちゃうノ?』
田中琴葉
一番、聞きたいけど聞きたくない声がする。ああ、目を開けてしまいたい。
田中琴葉
『琴葉はウチらのことが嫌いになったの』『コトハ、ねぇ、コッチを向いて?』
田中琴葉
やめて、これ以上私に話しかけないで。言葉を投げつけないで!
田中琴葉
『……いいよ、琴葉なんてもう知らない。友達だと、親友だと思ってたのに……』
田中琴葉
喉の奥がギュッと締まり、息が漏れる。違う、違うの……
田中琴葉
『なんで、なんでコトハはワタシたちを信じてくれないノ?』
田中琴葉
そうじゃ!そうじゃない!そうじゃない……の……
田中琴葉
頭の上でカラスがカァと鳴いた。まるであざけ笑うかのように。
田中琴葉
「そうじゃないの……
田中琴葉
「そうじゃないの……私は信じてるの、
田中琴葉
「そうじゃないの……私は信じてるの、みんなは、仲間の脚を引っ張るなんて絶対にしないって!」
田中琴葉
私は目を見開いた。瞬間、足を掴んでいた感覚が消える。
田中琴葉
くすんだ天井と壁面がくるりとひっくり返り、鮮やかな白となる。
田中琴葉
曇っていたはずの空は爽やかな青を取り戻し、足元からは陽の光が反射されているのを感じる。
田中琴葉
「みんな、待ってて…!」
田中琴葉
腕により一層力を込める。
田中琴葉
「時間はかかるかもしれないけど……!」
田中琴葉
見上げる空は明るくて、頬をなでる風は爽やかで。
田中琴葉
「絶対に戻るから……!」
田中琴葉
そして、私の心は今までで一番熱く、熱く燃えている。
田中琴葉
「これまでの私を超える、私になって!」

(台詞数: 50)