望月杏奈
祭は終わった。
望月杏奈
一年に一度、子ども達が夜を知れる日でもあり、きっと誰も月を見なくなる日でもある。
望月杏奈
残ってる人間は全て、出店を片付けて、明日の事を考えている大人だけだった。
望月杏奈
その大人たちも一人、また一人と片付けを終え、きっと家人の待っている場所に帰っていった。
望月杏奈
この大きな道を狭くしていた屋台の灯りも、もう随分歯抜けになってしまっている。
望月杏奈
皆が明日に向けて朝を待っている中、きっと世界で私だけが、夜を明かせずにいた。
望月杏奈
今日を稀の非日常として、前の年のように、月を忘れて楽しむつもりだった。
望月杏奈
本当なら今頃は、遊び疲れて眠っているはずだった。
望月杏奈
それなのに、今日を過ごせていない。いや、今日だけじゃない。
望月杏奈
何日前のあの日から、私の時は止まったままでいた。
望月杏奈
……
望月杏奈
両腕にの間あるものを抱いてしっかり確かめる。今はこれだけが大切なものであり……
望月杏奈
もっと大切なものを失ったという証拠だ。
田中琴葉
……ここまで来れば案じなくて良いでしょう。噂を気にして町の人は近寄りません。
田中琴葉
さて、何から話しましょう。
望月杏奈
……
田中琴葉
……結論から申し上げますと、あなたの考えは全て正しい。よく調べましたね。
望月杏奈
……
田中琴葉
焦らないでください。あなたは事を軽く考え過ぎです。
田中琴葉
確かに、あなたの腕ならば事を終えるのは容易いでしょう。
田中琴葉
しかし、そんな事をする為に毎日励んでいたのですか?
田中琴葉
他でもないあの人に、そう教えられましたか?
望月杏奈
……!
田中琴葉
あなたがなさろうとしている事は、まさにあなたがされた事と全く同じ、獣にも劣る所業です。
田中琴葉
はっきりと、申し上げます。あなたはこんな暗い場所で生きるべきではない。
望月杏奈
……! ……!
田中琴葉
ええ、ですから私達はよっく知っています。夜がどんなに暗いかを……
田中琴葉
そして、昼がどんなに明るかったかを。
望月杏奈
……
田中琴葉
日は簡単に暮れますが、夜は決して明けることはありません。どうしてあなたはそこまで……
望月杏奈
……………。
望月杏奈
……。
望月杏奈
………!!!
田中琴葉
そうですか。人の心に道理は通らないと、既に知ってしまっているのですね。
田中琴葉
ならば、あなたを止める論も、かける言葉もありません。どうぞお行きなさい。
田中琴葉
身を持って知ったはずの浅ましい行為に手を染め、業を背負ってお生きなさい。
望月杏奈
……。
田中琴葉
ああ、最後に一つ。
望月杏奈
……?
田中琴葉
夜はあなたの味方です。どうか灯りは消して、獣道を。
望月杏奈
……。
望月杏奈
知っている。全てあの子の言う通りだ。この心は全て道理に反している。
望月杏奈
今の私をあの人が見たら何と言うだろう。認めてくれるわけはないが。
望月杏奈
見下げ果てて軽蔑の言葉をかけるかもしれないし、かける言葉も無いかもしれない。
望月杏奈
どちらにせよ、私には過去に意味は無い。勿論これからの意味も無くなるだろう。
望月杏奈
両腕の間にある物を袋から出す。あの人はこんな事の為にこれを託したのでは無い。知っている。
望月杏奈
私は、深呼吸して、いつものように柄を握った。大丈夫、必ずうまくいく。
望月杏奈
でも、もし仕損じたとしても、私はあの人の元へはいけない。知っている。
望月杏奈
灯りはとうに消えていた。こんな顔も誰にも見られる事はない。暗闇に慣れた目で走り去り……
望月杏奈
そこにはただひたに暗い、夜だけが残っていた。
(台詞数: 50)