田中琴葉
キャラバンの締めくくり、「ゴールデンキャッスルライブ」は大盛況のうちに幕を閉じた。
田中琴葉
……本当は今日の午前中に帰京して、解散となるはずだったけど……
田中琴葉
亜美ちゃんの、『観光してかないなんて、仙台いちグ〜ッのチャンスがダメになるよ!』の一声で、
田中琴葉
急遽、滞在が一日延びた。
田中琴葉
急遽、滞在が一日延びた。……その上、ひとりずつプロデューサーと回れる時間も出来た。
田中琴葉
『千載一遇よ!なんで名古屋なのに仙台が出てくるのよ!』と指摘した伊織ちゃんが最初で、
田中琴葉
……なかなか手を挙げられなかった私が、順番が最後になってしまった。
田中琴葉
……こんな時まで、遠慮しなくても……いえ、引き気味にならなくても良かったのに。
田中琴葉
……分かってる。みんなプロデューサーのことを憎からず想ってる。明確に好意を抱いてる子も。
田中琴葉
アイドルは恋愛禁止……というのは、プロとしての心構え。ファンの前に立つために。
田中琴葉
でも……自分の中に沸き立つ気持ちを否定してしまうのも、正しくない、のかもしれない。
田中琴葉
アイドルとして夢や恋を歌うなら……そのキラキラしたものを否定するのは、如何なものだろうか。
田中琴葉
……
田中琴葉
……恋愛禁止という否定を、理屈を拵えて否定する。我ながら、なんと回りくどいことだろう。
田中琴葉
……プロデューサーは、アイドルという夢の世界に、私を誘ってくれた恩人だ。
田中琴葉
安静にしていれば、乱れることなく刻まれる脈拍。日々過ぎる日常生活も、静かに刻まれていた。
田中琴葉
アイドルになったあの日から……レッスンやライブ、イベントと、多くのことを経験した。
田中琴葉
安定した日常という脈は、大きく乱れ続けている。それは、疲れや苦しみももたらすけど……
田中琴葉
それは、例えば真剣にスポーツに打ち込んだ時の反動と同じ。得る喜びのほうが、ずっと大きい。
田中琴葉
……そして、いつからだろう。アイドルの仕事にドキドキするだけでなく……
田中琴葉
……プロデューサー自身が、私の脈拍を高めているのに、気づいたのは。
田中琴葉
……
田中琴葉
……私の想いが報われるのか、それとも破れるのか、それは分からない。
田中琴葉
でも、少なくとも言えるのは……私がこの想いを伝えなければ、宙ぶらりんのままということ。
田中琴葉
いっそ衝動的に、出し抜けに想いを伝えてしまえば!
田中琴葉
いっそ衝動的に、出し抜けに想いを伝えてしまえば!……それができる自分なら、苦労はない。
田中琴葉
プロデューサーをカラオケに誘う恵美。プロデューサーの手をいきなり握るエレナ。
田中琴葉
たったその程度の『衝動的行動』。それができるだけでも、二人を羨ましく思ってるのに。
田中琴葉
湧き上がる感情も、感覚ではなく理屈を持ち出さなければ、肯定することができないのに。
田中琴葉
……多分、キャラバンの他の子は、プロデューサーと沢山お喋りして、思い出を作ったんだろうな。
田中琴葉
……私はさっきから、お仕事の事とか学校での事とか、当たり障りの無い話しか出来てないのに。
田中琴葉
お疲れでしょうから、昨日のライブ会場近くを回るだけでいいです、とか答えてしまって、
田中琴葉
せっかく二人きりになれるのに……面白味もない場所を、取り止めも無く歩いているだけなんて。
田中琴葉
……もしかしたら、モヤモヤしているのは私だけじゃなくて、プロデューサーも?
田中琴葉
最後の最後で付き合ってるのが、心を開けていない様子の私では……気苦労をかけてしまうかも。
田中琴葉
……
田中琴葉
不意に視界に飛び込む、金色の輝き。
田中琴葉
不意に視界に飛び込む、金色の輝き。……私の堂々巡りの思案を遮る、小さな幻獣。
田中琴葉
「シャチホコのキーホルダー、私にお土産……ですか?」
田中琴葉
プロデューサーの手には、観光地らしい土産物。小学生なら大喜びしそうな、安直な一品。
田中琴葉
多分プロデューサーは、私との間の滞った空気を一変させたかったのだろう。
田中琴葉
なにかしてあげたいという思いだけで。理屈も計算も無く……「衝動」で。
田中琴葉
……ああ、そうなんだ。
田中琴葉
……ああ、そうなんだ。何かしたいと感じた時、素直に心の動きに従えばいいんだ。
田中琴葉
……寄る辺ない衝動だけで行動するのは、駄目なことなんだろうけど、
田中琴葉
……心の動きを肯定して、想いを素直に伝えることは、なんて素敵で素晴らしいことなんだろう。
田中琴葉
……次の瞬間、私は素直に、私の衝動を吐露した。
田中琴葉
「だったら私も、ひとつ買います。プロデューサーと、おそろいの思い出にしたいんです。」
田中琴葉
……プロデューサーは、私の素直さに少し面食い……そのあと、笑ってくれた。
田中琴葉
……並んで揺れる、シャチホコ。阿吽の様相、あるいは……夫婦?大事に、してほしいな。
(台詞数: 50)