七尾百合子
……エメラルド・シティに行きたい……
七尾百合子
……エメラルド・シティに行きたい……星座の力を身に宿したい……
七尾百合子
……エメラルド・シティに行きたい……星座の力を見に宿したい……黒魔術を使ってみたい……
七尾百合子
……困ったなあ。このペースじゃ百八つをオーバーしちゃうかも。腕も疲れてきたし。
七尾百合子
やっぱり、自分一人で百八つ鐘を撞こうとするのは無謀だったかな……もう帰ろう。
七尾百合子
でも不思議だなあ。廃寺でもないのに、大晦日に和尚さんも居ないなんて。
田中琴葉
ふふっ。こんばんは。
七尾百合子
あ、やっと人が居た。良かったあ。
田中琴葉
残念。私は「人」ではありません。
田中琴葉
私は夢魔。
七尾百合子
夢魔って……
七尾百合子
夢魔って……あの、私まだそういう経験無いんです。せめて最初はノーマルな形で……
田中琴葉
あ、そういうタイプの夢魔じゃないの。
田中琴葉
私は純粋に、夢を食べてるの。煩悩と言ってもいいものをね。
田中琴葉
もちろん強奪なんてしないわ。『契約』を結んだ上での話よ。
七尾百合子
『契約』?
田中琴葉
その人の煩悩を現実化する代わりに、その後の煩悩を食べさせてもらってるの。
田中琴葉
……貴女、アイドルをしてるんでしょ?契約するなら、技量と人気を手にできるわ。
七尾百合子
それって、レッスンで嫌な思いをしなかったり、テレビ収録でカットされないってことですか?
田中琴葉
卑近な例を挙げるならね。もちろん、お金も欲しいままよ。
田中琴葉
それとも、貴女が憧れてる文筆業での成功にする?
七尾百合子
私が書いた本が、ベストセラーになるってことですか?
田中琴葉
ええ……もっとも、煩悩を失うから、批評家とかの道になるでしょうけど。
七尾百合子
……それは微妙かも。
田中琴葉
なんなら、貴女の思い人と結ばれたい?そういう見返りにもできるわ。
七尾百合子
……ええと……
田中琴葉
ちなみに、今言った全てを手にすることも出来る。類稀な貴女の煩悩と引き換えならね。
七尾百合子
あの、煩悩を貴女に差し出すと、私はどうなっちゃうんですか?
田中琴葉
心配ないわ。生きる気力を失って廃人化するとかじゃないから。
田中琴葉
ただ、価値基準が経済観念とか法律とか名誉とか、そういうものにシフトするだけ。
七尾百合子
……
七尾百合子
あの、すごく魅力的な内容だと思うんですが、契約はお断りします。
七尾百合子
色んな空想をして、叶うといいなと感じて、叶えるために努力して、泣いたり笑ったりして……
七尾百合子
そうやって生きていくのが、私らしいと思います。
田中琴葉
そう……でも私も、貴女みたいな優良物件をみすみす逃せないの。
田中琴葉
はっきり言うわ。貴女の煩悩は、現実的なものも含めて99パーセント以上現実にならない。
田中琴葉
私と契約するなら、全てが叶う。悩むことは無いんじゃないの?
七尾百合子
……正直、心は揺れてます。……でも、契約はしません。
七尾百合子
私の中でこれからも生まれる煩悩を失うことは、可能性とか発展とかを否定することなので。
田中琴葉
契約不成立ね。残念だわ。私が貴女と出会うことはもう無い……
田中琴葉
貴女は、夢を現実化する唯一の機会を失ったの。いつかそれを後悔するかもね。
七尾百合子
……
七尾百合子
…………
七尾百合子
それが、大晦日に起こった超常体験です。
七尾百合子
後で振り返って、思い出しました。夢魔と名乗った少女の顔……
七尾百合子
かつてアイドルとして様々な夢を叶えながら、ある日全てが虚しくなったと言い残し……
七尾百合子
芸能界、いや、世間からも姿を消した伝説の少女。その人ではなかったでしょうか。
七尾百合子
……あの日の夢魔は、かつて煩悩を捧げて成功を得た、その少女の成れの果てかもしれません。
(台詞数: 48)