太陽王女ー島原エレナー
BGM
想いはCarnaval
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-09-13 00:16:34

脚本家コメント
タイトルが先に思い付いて出来たお話

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島原エレナ
――瞬間、私の脳内がまばゆいばかりの光で満ち溢れた。
島原エレナ
その笑顔は、初秋の公園の芝生の緑をより鮮やかにし、
島原エレナ
その動きは、高き天の雲に逆らわず滑らかにくぐり抜ける鰯のように優雅で、
島原エレナ
その歌声は歓喜と幸福に溢れつつもどこか憂いを帯び、
島原エレナ
ただただ、私の心を刺激した。
島原エレナ
気付いた時には、既に声を掛けていた。
島原エレナ
怪訝な顔をする少女に、シワのよった自分の名刺を渡す。もう何年も使っていなかった名刺。
島原エレナ
しかし、少女の手に渡した名刺は、隣の友人と思しきカチューシャの少女にすぐに取り上げられる。
島原エレナ
カチューシャの友人は、少女の手を取り、立ち去ろうとした。
島原エレナ
だが、少女はその手を振り解き、私の頼み事を聞いてくれた。
島原エレナ
その日の帰り道、私は馴染みだった画材屋へと足を運んだ。
島原エレナ
翌週、約束どおり少女は公園に現れた。新たに一人の友人を連れて。
島原エレナ
持ってきた椅子に彼女を座らせ、ひまわりの束を持たせる。
島原エレナ
……それから先はよく覚えていない。
島原エレナ
気付けば、椅子は空っぽで、少女ははるか遠くで友人たちと公園を出るところだった。
島原エレナ
少女は私が見ていることに気付くと大きくこちらへ手を振った。
島原エレナ
カンバスには先ほどまで椅子の上にあった暖かさが忠実にデッサンされている。
島原エレナ
私は自分の手をじっと見て、在りし日の自らの才能が返ってきたことを確信した。
島原エレナ
……
島原エレナ
……はず、だった。
島原エレナ
次の週、また少女を椅子に座らせ、私は筆をとった。
島原エレナ
初秋の風景を描き、少女のすらりと伸びた四肢を描き、鮮やかな服を描いたところまではよかった。
島原エレナ
しかし、いざ、顔へと筆が伸びた時、私の手はぴたりと止まった。
島原エレナ
いや、止まったのではない、動かなくなった。
島原エレナ
私の様子に気付いた少女の友人らが私に駆け寄る。目の前の少女も立ち上がる。
島原エレナ
三人はカンバスを覗き込むと、息を飲んだ。それはそうだろう。
島原エレナ
カンバスの中に座っていたのは顔にぽっかりと穴の開いた少女だったのだから。
島原エレナ
……私は、次の週の約束をしなかった。
島原エレナ
翌週、私は何も持たずに公園へと来た。
島原エレナ
じっと手を見ると例のカンバスが頭に浮かぶ。中央に置かれた吸い込まれるような白。
島原エレナ
その白から、これまで完成させることができなかった多くの作品が次々に現れる。
島原エレナ
後ろから肩を叩かれて、我に返る。振り返るとそこには少女がいた。
島原エレナ
少女は私の手をひっぱり、芝生へと駆けだした。
島原エレナ
日陰のない芝生の中央まで誘い込まれると少女はくるりと振り向いて、ステップを踏んだ。
島原エレナ
光を充分に吸ったステージの上で、
島原エレナ
爽やかな秋風の演出の中で、
島原エレナ
少女の柔軟な四肢が円を描き、弧を描き、波を表し、華を表す。すると
島原エレナ
また、私の脳内が光に包まれた。
島原エレナ
……少女がぺこりと頭を下げる。つられて私も頭を下げる。
島原エレナ
私は少女に礼を言った。そして、一つ提案した。
島原エレナ
『君の絵を完成させる。だから、君に贈らせてくれ』と。
島原エレナ
少女は笑顔で快諾した。
島原エレナ
―――今、私は自宅のアトリエにいる。
島原エレナ
目の前のカンバスの椅子の上には、大輪のひまわりと暖かな笑顔が佇んでいる。
島原エレナ
右下にサインを書いたところで、ふと、絵にタイトルを決めていないことに気付いた。
島原エレナ
ただ、次の瞬間には代えるもののないタイトルが浮かんでいた。
島原エレナ
初秋の芝生を照らし、雲の鰯を従え、すべての生き物に活力を与える存在
島原エレナ
その存在に一番近い、その存在の娘としてこの世に生を受けたもの
島原エレナ
そう、この絵のタイトルは――

(台詞数: 49)